売上や利益を「因数分解」して
数値を把握せよ

 これまで私は多くの企業経営者を見てきましたが、成功している日本企業の経営者には、主に国内市場で勝つための「因果関係」や「成功のストーリー」を自身の頭の中で描ける人が多くいます。

 そのため、売上や利益に関わる数値や指標を細かくモニターなどしていなくても、取引先や業界内での情報、従業員とのコミュニケーションの中で、先行指標をおおよそ把握し、そうした情報から自社が成功するための戦略を経験則や肌感覚で立てることができるのです。

 しかし、こうした経営者でも、戦う場所が海外市場になると事情が違ってきます。国内で成功していた「因果関係」が異なることも多く、経営者の経験則や肌感覚だけで対処できるとは限りません。また、直接得られる情報も圧倒的に少なくなりますので、事業のプロセスで出てくる指標や会計数値を把握しにくくなります。

 この状態を放置し、プロセスで示される数値をタイムリーに知る仕組みをつくらずにいると、最終結果として出てくる売上、利益などの数値に大きな異変が生じるまで、何の対策も打てないということが起こってしまいます。

 経営においては、どんな市場環境でも「プロセス」と「結果」に表れる数値をタイムリーに把握し、異常が起こればその都度、即対策を打つということが非常に重要です。

 こうした会計・経営管理を行なうための手法を「バランス・スコア・カード」といいます。これは、簡単に言えば、経営指標を「プロセス」と「結果」の指標に分けて、それぞれの因果関係を洗い出し、そこから「利益の上がるストーリー」を考え出して目標値を設定、目標値に到達するよう効果的な経営戦略を立てる、というものです。

 ある訪問販売事業で具体的に説明しましょう。

 まずこの事業の業績を向上させる要素を因数分解します。

「売上高」は様々な活動を行った結果として出てくる数値なので、「結果」指標の代表例です。

 訪問販売事業では、「売上高」=「訪問回数」×「成約率」×「1回あたりの販売金額」と要素を分解することができます。

 このうち「訪問回数」「成約率」「1回あたりの販売金額」は「プロセス」の指標です。「訪問回数」、「成約率」、「1回あたりの販売金額」をモニターし、これらの指標が上がっていれば、売り上げが上がることが予想できます。

 またさらに、「訪問回数」を増やす要素が「テレアポ回数の増大」「商談時間の短縮」「移動時間の削減」などであれば、それらの中で効果を上げる確率の高い要素は何かを見極め、改善策を実行できているかをモニターします。

 同様に、「成約率」を上げるためには「営業マンの課題把握力」「提案力」「クロージング力」などを高める必要があります。これらのスキルを高めるための開発プランを策定し、進捗度合いを計数的にモニターします。

「バランス・スコア・カード」はこのように、「結果」「プロセス」を構成する各要素を細かく因数分解し、自社が成功するためのシナリオを見える化し、その進捗度合いをモニターしながらタイムリーに対応策を実施することで、勝率を上げていく、というものです。

 実は、これは約20年前に導入された会計・経営管理手法です。当時は、まだ今のようにITも発達しておらず、「プロセス」指標一つをとってもタイムリーに把握するには多くの労力が必要とされたり、把握すること自体が難しいこともありました。

 しかし、その後、企業活動を広範囲にカバーするERPの導入が進み、タイムリーに見ることができる部分が格段に増えています。にもかかわらず、因果関係で浮かび上がる数値をタイムリーに把握し、経営手法として効果的に活用できている企業は、まだまだ少数です。

 経験則や肌感覚が優れた経営者も、頭の中にある成功シナリオをバランス・スコア・カードのような手法を用いて見える化し、社内で幅広く共有し、客観的な事実である会計や関連数値でタイムリーに確かめながら経営を行っていくことで、国内市場では通用したやり方が通用しない海外市場でも、勝率を上げていくことができるようになります。