北朝鮮が今年1月6日に「水爆実験」を行い、2月7日には人工衛星の打ち上げをしたことに対し、国連安全保障理事会は3月2日、15ヵ国の全会一致で制裁決議(決議2270)を採択した。この問題での北朝鮮制裁決議は5度目で「従来にない強い制裁」と称されている。
だが肝腎の北朝鮮からの石炭、鉄、鉄鉱石の輸出については、北朝鮮国民の生活に影響を及ぼさない範囲で禁止する内容となっており、中国はその輸入を続けることができる。
また北朝鮮に対する航空燃料、ロケット燃料の禁輸を定めてはいるが、原油の輸出は禁じておらず、北朝鮮は石油精製能力を持つから、中国から原油輸入を続け、航空用・ロケット用の燃料を造ることが可能だ。
北朝鮮の命脈を断たないようにこのような抜け道を設けたからこそ、安保理常任理事国である中国は制裁案に賛成したのだろう。だが中国にとっても北朝鮮が中国の説得に応じず、核兵器や弾道ミサイルの開発、配備を進めることは潜在的に危険であり、中国が悪評高い北朝鮮の経済的後ろ盾となっていることは、米国、日本など諸外国との関係上も不利であるのは明らかだから、中国国内でも北朝鮮との絶縁を唱える識者も少なくない。ではなぜ中国は北朝鮮をかばうのか、を考えてみた。
経済制裁中に北朝鮮の
貿易額は急速に増加した
韓国の「大韓貿易振興公社」が昨年発表した「2014年度の北朝鮮対外貿易動向」によれば北朝鮮の貿易の90.1%は対中国で、ロシアは1.2%、インドが1.2%、タイが1%という。ただこれは韓国との交易を含んでいない。南北の取引は「対外貿易」と見なしていないためだ。
実際には韓国と北朝鮮は国連にそれぞれ加盟しており事実上は別の国だから、韓国統一部の「統一白書2015年版」による南北の交易23.4億ドルを含めて計算すると、北朝鮮の貿易額は2014年で99.5億ドル、うち中朝貿易が68.6億ドルで69%、南北交易が23%となる。
北朝鮮の貿易は経済制裁にもかかわらず急速に増加した。韓国以外の貿易額は韓国側の計算によれば2010年に輸出25.6億ドル、輸入35.3億ドルだったのが、2014年には輸出43.6億ドルで1.7倍、輸入55.9億ドルで1.6倍になった。そのGDPも韓国統計庁の計算では2011年以来、毎年約1%程度とはいえ伸び続けている。
企業や農場が自主的に経営を行い販売することを認める独立採算性の導入などの市場経済化が経済の若干の活性化をもたらし、食料事情もかなり改善されたようだが、中国との貿易の拡大も大きな要因だった。だが中国で公共事業が一段落し、ビル建設ブームも去って鉄が余る状態になったため、一昨年からは減少傾向になった。