経営 × 財務

日本企業初のCFOに学ぶ実践知【前篇】
CFOは企業価値と理念の守護神である
伊庭 保・元 ソニー CFO

2016年4月5日
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日本初のCFO誕生

――3つ目のポイントですが、伊庭さんご自身の体験と重なるところですが、1992年の経営危機とCFO機能の確立についてお伺いします。ソニーは1980年代末、アメリカで大型の企業買収を立て続けに行いました(注1)。当時、伊庭さんはソニー・プルコ生命から社名変更したばかりのソニー生命の社長で、掌握感も出てきたところだった――。

 うん、居心地がよかった。

――大賀典雄さんに強引に引きはがされて(笑)、ソニー再建の火中の栗を拾わされたわけですね。こうして専務・総合企画本部長となられたのですが、この時、日本にCFOという概念がなかったのですか。

 アメリカには普通にありましたが、日本ではまだでした。総合企画本部の仕事は、経営戦略のほか、もっぱら事業計画の取りまとめや予算管理でしたが、1990年代初めには、エレクトロニクスでも海外の製造拠点など大型投資が相次いでいて、スタッフは危機感を持って対処していました。映画事業の買収に大量の資金を投じても、エレクトロニクス事業の投資は制約しないと経営会議で了解されていたため、投資の規律が緩んでいたことは否めませんでした。

 CFOを、最初はそれほど意識していなかったが、仕事に取りかかると財務も会計も担当しないと、こんな大変な時に総合企画本部長としての役割が果たせない、と考えるようになりました。

 財務は特に問題で、ADR(アメリカ預託証券)発行などの直接金融を担当していた社長室と、銀行からの借り入れなど間接金融を担当する財務部の2つに分かれていたのですが、互いに仲が悪くて、うまく協力できていませんでした。そうした会社を支えていく機能は、全部一つにして統一的に指揮できるように切り換えていきました。この辺りから、CFOの使命を意識し始めましたね。

 私は、入社後早い時期に法務畑を経験したのですが、そのおかげで、いろいろな訴訟や契約交渉を通じ、また首脳陣との面識を得ることにより全社的視野を持てるようになりました。子会社の社長になることにより、本社と子会社の関係を経験しました。そして、その時々の重要な経営課題と向き合う中で、財務とガバナンスは表裏一体であると認識するようになりました。

――実質的なCFOとして、どんな手を打たれたのですか。

 再生には、何と言ってもエレクトロニクスの商品力と収益力がカギです。そこで、商品力、販売力、R&D、生産革新、人材・組織、不採算事業の6つの経営体質強化委員会をつくり、商品力は社長の大賀さん、R&Dは専務の森尾稔さんといった具合に、経営会議メンバーの首脳陣がそれぞれ委員長になって役割を分担しました。

 この時、最も重視したのは、情報の共有化を図って、全社横断的に戦略を立て、ベクトルを合わせることです。しかも、タイムリーかつ適切な決定ができることでした。これらは営業キャッシュフローを増やし、投資キャッシュフローを戦略的かつ適正なレベルにコントロールすることが狙いでした。

 加えて、財務部門としてできることにも着手しました。一つは銀行との取引関係を見直したことです。従来は三井銀行(当時)が実質的メインバンクとして機能していたのですが、邦銀のメインバンク制度はよいところもあるとはいえ、資金調達や為替管理の分野で海外の金融機関はたえず新しい手法の開発に取り組み、積極的に提案してきました。

 そこで、よい提案をする金融機関と取引するとの原則を定め、実行しました。会社としても、財務戦略について見識を備えなければならないので、日本興業銀行(当時)からの採用や中途採用で優秀な人材を集めました。

 この改革は、成果がありました。たとえば、ベルリン・プロジェクトでは、キャッシュフローに影響しないよう、オフ・バランスのスキームをつくり、投資を実行したのです。邦銀の間では、従来の枠組みを変えたことが話題になったようですが、三井銀行との関係が悪くなったことはなく、健全な緊張関係が維持されていると思います。

 もう一つは、グループ内で資金を効率的に活かすため、金融部門を除く全子会社の残高を集中的に管理するシステムの構築です。

 その狙いは、たとえば、連結のキャッシュフローがネガティブであっても、ある子会社は資金的余裕があり、銀行に預金するといった状況をなくすことにあります。これは、財務部スタッフのアイデアでしたが、現在は、ロンドンにあるファイナンス・センターが機能していると理解しています。子会社別のキャッシュフローが速やかにわかるので、ネガティブ・キャッシュフローであれば、何か問題があるのではないかと調べるきっかけにもなります。

 日本の会社では先進的な取り組みでした。このシステムの設計や運用の責任者は、KPMGへ転職し、いろいろな会社へのコンサルティングで忙しいようです。

 余裕資金といえば、着任早々、留保利益のある子会社からは、配当の形で資金を本社に還元してもらいました。子会社の社長からは、営々と蓄積した利益を本社が一言で吸い上げるのはけしからんとの声も上がりましたが、キャッシュフローが苦しいことを説明し、納得してもらいました。
 以上のような一連の業務から“Profits are an Opinion, Cash is a Fact.”(利益は意見、キャッシュは事実)との表現は真実を映している、と確信するようになり、後輩にも伝えるようにしています。

――経営会議のやり方にもメスを入れられていますね。

 メスというほどではないですが、経営会議を頂点とする意思決定メカニズム(決裁手続き)が適切に機能していないと感じたことは確かです。審議にかける案件について、その目的、実施方法、費用と効果、リスクなどを、利害関係者を含めた十分な検討が事前になされることなく、ただ経営会議の承認を求めているケースが見受けられました。

 そこで、経営企画と事業戦略のスタッフに各事業本部の情報をもれなく収集させ、必要な場合にはR&D戦略本部にも加わってもらって、各案件を検討・評価させるなど、会社の利益につながる合理的な判断ができるよう、事前準備を徹底させました。

 そうすると、どの案件を経営会議にかけるか、あるいは担当役員の決裁に委ねるかといった判断をはじめ、合理性に欠けるのでこれは中止しようなど、修正や再検討についても、きっちりできるようになりました。

 経営会議が限られた時間内で効率的に審議するためには、入念な準備を徹底できるかどうかが大切なポイントです。また合わせて、タイムリーに適切な意思決定ができるように、プロセスの「整流化」(テキパキとさばくこと)にも努めました。(つづく)

注1)1988年にCBSレコード(20億ドル)、1989年にはハリウッド大手のコロンビア映画(債務肩代わり分を入れて本体だけで46億ドル)を買収する。この巨額の資金コストに加え、エレクトロニクスの商品力の低下、バブルの崩壊も追い打ちとなって、ソニーの有利子負債は1兆7200億円と、買収前の5倍に膨れ上がり、1992年3月期には上場以来初めての営業損失となり、その後も2年連続で減収と、不振を極めた。

(構成・まとめ/森 健二)

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「トップ・マネジメントの教科書」CEOとCFO その新しい関係

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「「トップ・マネジメントの教科書」CEOとCFO その新しい関係」

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