外部専門家を評価できる
社内専門チームの必要性

――M&Aを成功に導く要件は何でしょうか。

 一般論としては3つ挙げられます。一つは、シナジーが生み出せるシナリオがしっかりしていること。もう一つは、フェア・バリュー(適正価格)で購入すること。そして、3つ目はPMI(Post Merger Integration)であり、M&A成立後にどういう形で企業価値を引き上げていくか。とくにイン・アウトの場合は、PMIは重要です。

 資金が余っている企業からするとM&Aは重要な選択肢ですが、投資家から見れば株式配当を増やしてもいいし、自社株買いでもいい。企業価値創出のシナリオをしっかりと描けていないのにただM&Aを実施しても、逆に企業価値を損なうリスクが大きくなります。

 買収するに際しては、プレミアムを払うのが一般的ですが、それが企業価値を生み出すシナリオにおいて許容範囲かどうかも慎重に見極めなくてはりません。売り物は一件しかないので、経営者はつい買いたくなる。しかし、高く買ってしまい、のれんの償却負担で苦しみ、のちのちまで経営に悪影響を及ぼしている例もあります。アメリカのタイヤ販売チェーンの買収でブリヂストンはアクティビスト・ファンドと価格引き上げ合戦を演じましたが、彼らの許容範囲を超えたところで引き下がりました。世界企業としてM&Aの経験を積む中で、企業価値を生み出せるシナリオをしっかりと描けるようになっていたがゆえの撤退だったのではないでしょうか。

 M&Aの成功事例としてよく名前が挙がる日本電産やダイキン工業は比較的小さな企業を買って立て直すことを繰り返しながら、M&Aの知見を蓄積し、PMIに関してもノウハウを定着させていったのだと思います。リスクを低減するためには、そうした経験が欠かせません。

 2000年代に入り金融機関やコンサルティング会社がM&A専門のチームを発足させたり、M&Aを仲介する企業が増えたりするなど、M&Aを取り巻く環境整備は近年飛躍的に進みました。そうした専門家に部分的に任せざるをえないことは事実ですが、外部の専門家を適切に評価できる社員を企業は内部に抱えておく必要があるでしょう。自前で育てるか、外部から登用するか企業によってやり方は異なるでしょうが、M&Aを成長戦略の一環と位置づけるなら、それにふさわしい専門家チームを持っておくべきだと思います。

 企業価値増大を求める投資家からのプレッシャーで、企業が過度なリスクにさらされる危険性はありませんか。

 過度なリスク・テイクを促されると見るかどうかは微妙なところですね。日本企業は一般的には保守的な傾向が強く、企業内に留まっている非効率な資金の活用法として、M&Aはやはり有効な選択肢であることに間違いはありません。

(構成・まとめ/田原 寛)