昨年、業界全体の競争力を強化したい経済産業省の意向に沿う形で、JXホールディングスと東燃ゼネラル石油、出光興産と昭和シェル石油の統合という大型再編が起こった石油元売り業界。だが、一息入れる間もなく、経産省は業界に対して次なる競争力強化のための施策を突き付けようとしている。 (「週刊ダイヤモンド」編集部 片田江康男)
石油元売り各社の経営を大きく揺るがす可能性を秘めた改革が、経済産業省の主導で進められている。それは、かねて不透明さが指摘されていたガソリンの中間業者が日々売買する卸価格に、市場の実勢価格が正確に反映されるようにするというものだ。
きっかけは2014年春。ガソリンの取引価格を調査し、その情報を販売しているリム情報開発に対し、価格の調査や算出方法が証券監督者国際機構の定める石油価格報告機関の原則(PRA原則)にのっとったものかどうかの監査が入ったことだった。
上の概略図を見てほしい。業界には、商社などが元売り各社から仕入れた正規ガソリンのうち、さばき切れなかった余剰ガソリンを売買するスポット市場が存在する。業界内ではこの余剰ガソリンを「業転玉(ぎょうてんぎょく)」と呼び、リム社はこの業転玉の取引価格情報を有料で提供している。
だが経産省はこの価格には、恣意的な操作が行われている可能性があると問題視した。リム社は価格を調査する際に、業転玉の買い手であるガソリンスタンド運営会社や商社などに価格をヒアリングする。経産省が問題視したのは、買い手であるこうしたヒアリング先が少しでも安い価格でガソリンを仕入れたいがために「ありもしない安い取引価格をリム社に伝え、安値誘導しているかもしれない」(経産省幹部)という点だ。
一方、元売りにとってリム社の価格は頭痛の種だった。リム社の価格が元売りから出荷される正規ガソリンの卸価格を決める際の指標となっているからだ。恣意的な情報による安い価格の可能性があるリム社の価格に正規ガソリンの卸価格が引っ張られ、元売り各社は安い卸価格での取引を強いられるという構図があった。
元売り首位のJXエネルギーなど各社は、商社など中間業者と正規ガソリン取引をする際、一度決めた卸価格がリム社の価格より高かった場合は、その差額を取引成立後に精算する「事後調整」が慣例化しているといわれる。