そこで、担当者を前に「トーハンがこの書店を支援するから、無理な取り立てをしないでいただきたい。フリーキャッシュフロー(手元の余裕資金)はこれしかなく、皆さんもプロなのだから、このままでは返せないのも分かっているはずです。リスケをお願いします」と頼んだのです。支援会社がいることを知った担当者たちは、むしろ安心してリスケの稟議(りんぎ)を通してくれたのです。

 本書にも書きましたが、銀行は、最終利益(税引き後当期純利益)だけでなく、そこに減価償却費を加えた金額を見ています。それが借入金返済の元手になるからです。つまり減価償却費は、銀行と交渉する上でも重要な項目になります。

 ですが、お金を借りる方が金融機関や資本の論理を理解していないと、いくら情熱があっても、金融機関と交渉して再生を果たしていくのは難しいでしょう。

──ファイナンスが重要なのはわかりました。ただ、金融機関出身者が企業再生に携わってもうまくいかない事例は多くあります。小説は銀行マンが地方書店に出向するお話ですが、この辺はどう考えていますか。

 はい、金融が分かっているだけでは経営再建は難しいと思います。主人公もそこに苦労しますし、私もトーハンから来た人間ということで、最初は社員からなかなか信頼されませんでした。

 そこで、この本では、決算書の読み方だけでなく、コスト削減策やマーケティング戦略、社員のモチベーションを上げるためのコーチングなど経営において実践的な内容を盛り込みました。

 例えば、LED照明をレンタルで導入するだけで経費削減につながったという事例があります。実はこれ、明屋書店で実際に行って成果が出たコスト削減策なのです。

 ほかにも、本ではパートタイム従業員のシフト管理に関する事例やエアコンの節約術についても触れています。いずれも、一般の中小企業にとっても無理なくコスト削減ができるものだと思います。

 われわれは、こうした光熱水費や人件費の管理から原資を集め、社員の基本給を上げることができました。これまで賃金カーブがなかった会社だったので、社員のモチベーションアップにもつなげることができたのです。

──実体験が主だというわけですね。実話はどのぐらい占めるのですか。

 7対3ぐらいで、実話の方が多く占めています。というよりも、実体験をフィクションの登場人物や舞台に重ねたというのが正しいかもしれません。登場する店長たちも、本当にいた人をモデルにしたものから架空の人物までさまざまです。

──小説では主人公が書店の店長と対話を重ね、店長のやる気が上がっていくシーンが多く出てきます。実際、店長のモチベーションを上げるために、何をしてきたのでしょうか。

 そうですね、書店の店長をやっていて面白いのは、自分で仕入れた本が売れたときだと思います。われわれの場合は次の三つの指標さえ守ってくれれば「店舗運営はお好きにどうぞ」と店長に任せています。