日本人にとってはありふれた食材でも
マレーシア人は興味津々
本連載「黒い心理学」では、ビジネスパーソンを蝕む「心のダークサイド」がいかにブラックな職場をつくり上げていくか、心理学の研究をベースに解説している。
先日、日本の長野県安曇野のわさび業者の方たちがマレーシアに来て、現地の人々に日本の「本わさび」を紹介した。
マレーシアでは日本食は高級食として人気があり、首都であるクアラルンプールやその近郊には実に616軒の日本食レストランが存在する。日本でもおなじみの吉野家や、はなまるうどん、すき屋などのチェーン店もある。しかし、一番人気の日本食はやはり寿司だろう。回転すしチェーン店はいくつもあり、いつも地元の人でにぎわっている。
そのような寿司屋では、粉わさびが使われる。大抵の場合、子どもも食べるので、寿司はさび抜きで、その代りにテーブルやカウンターに大量の練られた粉わさびがおいてある。辛い物好きのマレーシア人は、大量の醤油に大量の粉わさびを入れてどろどろになったわさび醤油に、寿司をつけて食している。
昨今の日本では、チューブわさびですら、本わさびか、本わさび風味のものが主流であるのに対して、マレーシアでは(そして多分米国でも)、わさびといえば粉わさびを練ったものだ。粉わさびは西洋わさびをベースに、着色風味づけしたものである。当然ながら、日本伝統の本わさびとは異なる。
本わさびを用いる店もあるが、非常に限られた高級店のみである。本わさびは新鮮野菜なので輸入が難しく、関税の問題もあって、普及させるのが難しいと思われていた。だが、最近では本わさびの人気が台頭し、欧米の高級レストランでも用いるケースが増えてきたという。
マレーシアでも本わさびの美味しさを知ってもらうために、日本のわさび業者がやってきて、イベントを開催したのだ。
このとき、現地の日本人コーディネーターがどうしても取り入れてほしいと業者にお願いしたことがあった。それは「わさびのすりおろし体験」だった。本わさびを現地のマレーシア人にすりおろしてもらい、クラッカーに乗せて試食してもらうというものだ。
こう聞くと、日本人としては「なんていうことのない体験」に思える。だが、これがびっくりするほど盛り上がったのだ。
まず、大抵のマレーシア人は、わさびの原型を知らない。練った粉わさびが彼らにとっての「本物のわさび」なので、自分たちがいままで食べていたものが、本当のわさびではなかったことに、まず驚く。
そして、本物のわさびを味わうだけではなく、「つくる」体験ができることを、とても喜ぶのだ。使うおろし金も、一般的なものではない。日本人にとっては当たり前の鮫皮おろしも、彼らにとっては初めて見るものだ。興味津々である。