本筋の目的を
見失わないようにする

岸見 自分のやっていることに価値があると思うために、他者からの評価を求めてはいけません。ベビーシッターの事業をしているならば、「自分のやっていることが、お母さんや子どもたちの役に立つ」という軸で考えられるようにならないと、やがて評価のほうに目を奪われ、本末転倒になってしまいます。

経沢 そうなんです。そこは見失いたくないです。

岸見 経沢さんは、他人に承認されるためにベビーシッターの事業を始めたわけではないですよね。お母さんが子どもを預けて生き生きと働けるようになれば、本人も子どもも社会も幸せになると、自分の経験から感じたからだと『すべての女は、自由である。』でもお書きです。その原点を忘れてはいけない。だから、上場するとか、経営者として立派だと思われたいというのは、本筋ではないはずです。

経沢 でも、でもですね……。と言うと、なんか、やりとりが哲人と青年みたいになってきました(笑)。

岸見 どうぞ、どうぞ。疑問点があれば、率直におっしゃってください。

経沢 私は、他人の評価軸も活用するべきではないかと。たとえば、ベビーシッターは日本では文化的になかなか受け入れらない現状があります。でも、たとえば上場してパブリックな会社になれば、「安全なんだ」「ここまで普及しているんだ」と安心してもらえます。他人の評価軸が、ユーザーを増やすことにつながると思うんです。また、会社が成長していけば、社員の経済面も満たされ、よりよいサービスを提供できるようになります。他人の評価軸を活用することで、経営がうまくいくという側面もあるんです。

岸見 そうですね。でも、それは付加価値であって、本筋ではないですよね。

経沢 そのことは、しっかりと心に刻んでおきたいと思います。

岸見 ところで、たしかにベビーシッターが受け入れられない文化が日本にはありますが、1日中、親と子どもが顔を付き合わせていることは、必ずしも望ましいことではありません。仕事をしているから預けるということではなく、専業主婦の人でも時には子どもを預けて自由に過ごせる時間があって絶対にいいと思います。親とずっと一緒でなければ子どもが育たないわけではありませんし、むしろ預けることで親と子どもの関係が良くなることもある。でも、日本では、「親だけが育てなければいけない」という神話が根強くありますね。

経沢 それも評価が「他人軸」な部分があるからだと思います。人から、どう見られるかが気になってしまうのかもしれませんね。

(後編に続く)