明治・大正・昭和・平成
「ゼロ」が抹殺された日本史

 インターネットで資料を探し始めたところ、明治以来の数の教育を論じた論文がすぐに見つかりました。

『尋常小学算術』における数概念形成の教授法に関する考察~「直観主義」vs.「数え主義」の対立図式の誤り~上垣渉(三重大学名誉教授・岐阜聖徳学園大学教授)~岐阜聖徳学園大学紀要〈教育学部編〉第52集通巻第64号(2013年)。

 その中で、「ゼロの概念」について文部科学省の見解が書かれたものがありました。

 昭和初期に発行された小学校第1学年の算術教科書「実用小学算術」(上・下)の編纂責任者である塩野直道が、『尋常小学算術第一学年教師用下』(日本書籍株式会社、1935<昭和10>年7月11日発行)で、教師用指導書にある「数え方」を紹介しつつ、次のように書かれています。

 ここ(教科書)で特徴的なことの第1は、「0」(零、ゼロ)が独立した数として登場しないことである。
 第1学年用上にはもちろんであるが、第1学年用下にも見られないのである。数0に関する記述と言えば、第1学年教師用下の第1章「十までの数範囲における加減」の最後の「備考」の第5番目の項目として、「本書では、0を足すこと、0を引くことは、実際問題として意味のないことであるから、取扱わないこととした。『3-3』の如きも、実際には明白なことであるから、採入れなかった」と説明されているに過ぎない。

 つまり、ゼロを足したり引いたりすることは、実際上意味がないと考えられ、ゼロは小学1年生には教えられなかったわけです。

 このために、昭和初期の教える側の個人的見解が反映するようになったのではないでしょうか。
 そのことが、今でも続いているのではないか。私はそう思えてなりません。

「義務教育における『ゼロの概念』脱落は、無意味除去によって起こった」とする仮説は、算数教育の歴史研究者によって裏づけられなければなりません。