ほとんどの企業は本当に重要な数字について知ろうとはしていないダイヤモンド社刊
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「人口構造の変化と同じように重要でありながら、経営戦略上ほとんど関心を払われていないものとして、支出配分の変化がある。21世紀の初めの数十年は、この支出配分が重要な意味をもつ」(『明日を支配するもの』)

 かつては、生活水準の高さを示す数字として、エンゲル係数なるものが使われた。消費支出に占める飲食費の割合のことだった。

 ドラッカーは、経営環境の変化を知るには、このエンゲル係数に相当するものを見つけよと言う。

 多くの企業が売り上げの増減を気にする。あるいは市場シェアに気をつかう。こうして、あらゆる企業が自らの成長の度合いを数字で把握しようとする。

 それなのに、ほとんどの企業が、本当に重要な数字については知らない。すなわち、顧客の全支出のうちで、自社が提供するカテゴリーの製品とサービスに向けられているぶんの割合である。

 ドラッカーは、支出配分の変化こそ、企業にとってあらゆる情報の基本だという。しかも、必要な情報のなかでは、むしろ手に入れやすいものである。支出配分は、一度落ち着けば、そのまま続く。それはトレンドである。

 たとえば、携帯電話に取られてしまったぶんを、出版業その他既存の産業が取り返すのは容易なことではない。ところが、この変化を重視する企業やエコノミストがいない。そもそも、そのような問題があることを知らない。

「支出配分の変化こそ、企業にとってあらゆる情報の基本である」(『明日を支配するもの』)