生産能力をなんと1.5倍に増強するというのだから強気である。国内電炉最大手の東京製鐵は11月24日、14年ぶりとなる製鉄所を愛知県田原市で稼働させた。

 1620億円を投じた新工場の生産設備能力は250万トン。現在の500万トン体制から最大750万トンに増える。需要動向を見極めながら、来春以降、本格稼働する予定だ。

 電炉メーカーの主力製品は「H形鋼」などの建材である。だが、公共事業や設備投資の減少で建材需要が低迷し、先行きは厳しい。にもかかわらず、生産設備能力を大幅に増強する背景には、自動車や家電製品などに使われる薄鋼板参入の狙いがある。

 スクラップから鉄を生産するため、電炉メーカーの製品には不純物が混じる。そのため、高品質を要求される薄鋼板の製造は技術的に困難というのが従来の業界の常識だった。

 ところが、「真空で窒素などを取り出す新たな製造技術を導入することで、高炉並みの品質を実現できるようになった」(東京製鐵)という。

 そもそも、電炉には価格競争力があり、二酸化炭素(CO2)排出量が高炉の4分の1程度という利点もある。品質や性能試験をクリアすれば、高炉メーカーにとっても脅威だ。

 新工場がトヨタ自動車の田原工場に近いことから、「トヨタ自動車との取引を狙っているのではないか」と早くも高炉メーカーは警戒している。

 東京製鐵は、かつて鉄鋼最大手である新日本製鐵とのあいだで「H形鋼戦争」を繰り広げ、激しい値引き競争のすえにシェアトップを獲得したことがある。

「鉄鋼業界の暴れん坊」と称される同社が高炉メーカーの本丸である高級鋼に狙いを定めたことで、再び両者のつばぜり合いが激しくなりそうだ。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 松本裕樹)

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