欧米等の短期金融市場で年末越えの金利が異常な高騰を見せていたため、FRB、欧州中央銀行(ECB)、イングランド銀行、スイス国立銀行(SNB)、カナダ銀行などが大規模な資金供給を実施した。

 また、FRBはECB、SNBと為替スワップを行ない、ドル資金をそれら中央銀行に貸し出すことを決めた。これほど多くの中央銀行がいっせいにアクションを取る事態は歴史的にも希だろう(日本の短期金利は海外に比べると落ち着いているので、日本銀行は不参加)。

 FRBは12月17日に新しいターム物の資金供給オペ(Term Auction Facility=TAF)の入札を行なっている。20日には第2弾の入札が行なわれる。

 FRBは市場の流動性不安を鎮めるために、ディスカウント・ウインドー(日銀の補完貸し付けに相当。適用金利は公定歩合)を金融機関が利用しやすくなるように、8月に変更を行なった。しかし、米国の銀行は資金繰りが苦しいときも、ディスカウント・ウインドーをあまり使いたがらない。それを通じてFRBからおカネを借りたことが市場でうわさされると、「あそこは資金繰りに問題を抱えている」という不名誉な評判(「スティグマ」と呼ばれている)が立ってしまうと多くの銀行は恐れている。日本でも似たような状況が金融危機の際に見られた。

 一方、これに参加できる金融機関はプライマリー・ディーラーに限られる(野村証券が11月末で辞退し現在20社)。また、レポ・オペの対象となる担保は米国債、エージェンシー債、MBSに限定されている。レポ・オペの期間を長くして年末越え金利の高騰を抑え込もうとしても、効果は限られるとFRBは判断し、TAFという新しい枠組みを提示した。

 TAFに参加可能な金融機関は潜在的には数千社に上ると思われる。また、ディスカウント・ウインドーの担保がそのまま認められるので、金融機関が保有している非常に広い範囲の資産が担保となりうる(サブプライムのモーゲージや、カードローンも含まれる)。また、TAFの形式はディスカウント・ウインドーではないので、「スティグマ」の問題も生じない。

 この新しいオペが非常にいいアイディアであることは事実であり、年末越えドル金利は低下を見せた。しかしながら、先日、出張で米国を回った際には、市場関係者から「もっと早く導入できなかったのか?」という声が聞かれた。FRBの対応が後手に回っているという不満が市場には燻っている。バーナンキ議長にとっては2008年も多難な年となりそうである。
(東短リサーチ取締役 加藤 出)