第12回コラム「ソフトバンク編」では、同社の決算短信などでしばしば用いられている“EBITDA”という指標の「メタボリック度」を検証した。一般的にEBITDAは大きいほど「望ましい」と考えられがちだ。しかし、この指標には支払利息なども含まれており、たとえ数値が大きくとも「借金太り」を見逃している可能性があることを指摘した。
このように経営分析の世界ではEBITDAに限らず、理論的な背景が十分に検証されないまま、企業の決算書を渡り歩く経営指標が少なくない。今回取り上げる「フリーキャッシュフロー」もそのうちの1つであろう。
筆者もあれこれ取り組んでいるのだが、実はいまだに、その正体がよくつかめない怪物である。
今回はその怪物「フリーキャッシュフロー」を、迷走を続ける経営再建中のJALとキャッシュフローの伸び悩みに直面する日立を例にして、理論的に求めていこう。
フリーキャッシュフローの単純な求め方
小学館の『大辞泉』でフリーキャッシュフローの意味を調べると「企業が生み出したキャッシュフローから設備投資などの現金支出を引き、手元に残ったその期の事業活動による純現金収入」とあった。
式で表わすと〔図表 1〕になる。
この定義はおそらく、米国会計基準に則って作成された決算書を参照したのだろう。
ニューヨーク証券取引所に上場している日立製作所の決算短信(09年3月期、15ページ)を参照すると、そこに掲載されている「比較連結キャッシュフロー計算書」にフリーキャッシュフローまでが開示されている。科目に若干の修正を加えて、その要約を示すと〔図表 2〕になる。