
熊野英生
米国の銀行破綻などは個別銀行問題として捉えられ、株価を見る限り金融不安は一服しているようにみえる。だが利上げ局面ではプルーデンス規制が例外事例からほころびるリスクがあり長丁場での警戒が必要だ。

日銀新総裁に「本命」ではなかった植田和男氏が起用されるのは、低金利・財政拡張路線維持を求める自民党内の勢力が受け入れそうな植田氏に金利正常化を託そうという岸田政権の思惑がありそうだ。

日銀がYCCの追加見直しを見送ったのは、昨年12月の政策変更が次期総裁の下、金融政策正常化に向かうシグナルとして一定の成果を上げたとみているからだ。1月決定会合でも出口戦略の布石は打っており4月以降の正常化の思惑は変わっていない。

消費者総合指数を見れば消費水準はコロナ禍前の水準まであと少しで戻りそうだが、品目別の分析や消費性向、消費マインドから見れば違う姿が見える。消費の実相に迫るには「分ける」「統合する」「裏側を見る」という複眼思考が必要だ。

物価上昇は財政にとっては巨額債務が目減りする一方で税収が増える「隠れた効果」を生み、財政健全化の余力が増している。だが問題は時の政権が財政規律にあまりにルーズになってしまっていることだ。

日銀総裁は「利上げをすると景気が悪くなる」というが、カネ余りのもと企業も家計も受取利子の方が支払利子を上回りむしろ利上げの恩恵を受ける。人為的な超低利政策は巨額債務を抱える政府の側面支援に重きを置いて続けられている。

企業は円安による輸入物価上昇に対する防衛策を考える時期だが、ドルを保有することで円安に進んだときの為替差損を防いだり、インカムゲインを得たりして採算悪化のいくらかを補うことができるはずだ。

ウクライナ危機は経済の結び付きを強めることで紛争を回避する「経済抑止力」に限界があることを浮き彫りにしたが、一方で「経済安全保障」を重視すれば利害関係が薄くなりお互い抑制が利かなくなる難しさがある。

ウクライナ侵攻を機に日本もエネルギーや貿易政策は経済安全保障を重視することになる。脱炭素化やレアメタルなどの安定供給確保に伴うコスト増に対応できるよう「価格転嫁力」を高めることかが重要になる。

コロナ後の主要国の大きな課題は人口減少だ。海外からの労働者の流入減に加えて婚姻件数減少など、人口が元に戻らない構造変化が進むからだ。減少が最も深刻な日本は本気で対応する必要がある。

岸田政権の「分配重視」への期待が大きいが、賃上げ企業の法人税を軽減する「所得拡大促進税制」強化の効果ははっきりしない。「2の矢」として中小企業の成長戦略が全体の賃金引き上げの鍵になる。

自民党総裁選が17日に告示されるが、分配重視の岸田氏と改革派の河野氏が勝てば安倍・菅政権と続いたタカ派・リフレ政権が転換する可能性が高い。アベノミクス継承の高市氏と三つどもえの政策論争だ。

2020年度の税収が過去最高になったのは輸出が伸びた大手・製造業の好業績で法人税収が上振れしたことが大きい。コロナ禍での税収増で財政健全化を前倒しで実現する可能性が出てきた。

アジア諸国や米国でも人口減少圧力が顕著になり、人口減少と高齢化が低成長につながった日本のようになる可能性がある。技術革新で生産性を高めるためにもオープンな企業活動は重要だ。

日銀が政策点検で打ち出した長期金利の変動幅「明確化」は長期金利の上昇を容認し将来の政策変更の布石だ。米金利の上昇に対応するとともに財政規律を政府に意識させる狙いがある。

AI(人工頭脳)を使って相手との相性などをチェックするAI婚活事業の支援を政府が始める。AIを活用するマッチングは採用の面接などへの応用もできそうで、従来の少子化対策とは違う新しい切り口だ。

最近の株価上昇は新型コロナワクチンの接種開始などに対する期待先行もあるが、ネット取引やテレワークの普及など、コロナ禍で進むデジタル化、経済変化の動きを反映したものがある。底流の変化を過小評価すべきでない。

トランプ大統領のコロナ感染で米大統領選はバイデン候補の優位が一段と強まった。法人課税強化などの経済政策は株価下落の要因だが、就任すれば現実路線を採ると思われその場合はいったん下げても株価は上がる。

新型コロナ対応で緊急事態宣言を再発出するなら、消費減少の打撃を少なくする需要対策とともに、営業自粛などの規制による感染抑制の費用対効果を示し、もう次の宣言はないと感じるようにすることだ。

コロナショック対応で政府と中央銀行が一体となって信用リスクを肩代わりする企業金融支援策が主要国で展開されている。株式市場の急回復はその効果だが、異例の政策が長引けば過剰な供給能力が温存される副作用も意識する必要がある。
