黒田東彦日銀総裁Photo:JIJI

企業や家計は利上げで恩恵
「人為的超低利」がゆがめているものは何か

 物価上昇や円安が続くなか、黒田東彦日本銀行総裁は、「金利を上げると景気が悪くなる」と、直近の7月金融政策決定会合後の記者会見でも利上げ観測を一刀両断に否定してみせた。

 記者からは質問や反論は出ないまま。あまりに“常識的な見解”だったから記者の思考をすっと素通りしてしまったのかもしれない。

 しかし専門家の立場から言わせてもらうと、総裁発言にはいくつか反論したくなる。利上げを否定したとして、「緩和維持」をしていれば景気は改善していくのだろうか。

 カネ余りの日本経済では、全体としてみると、巨額の債務を抱える政府はともかく企業も家計も受取利子の方が支払利子よりもはるかに多い。民間企業は、受取利子の方が支払利子の2.8倍にも膨らんでいる。

 金利水準が高い方が企業収益を押し上げるという不思議な状態とみることもできる。マクロで見れば利上げの方が恩恵を受ける状況だ。

 2%物価目標にしても、日銀は実現に持久戦の構えを取っているので、長短金利を現状のまま低位に据え置くことが「最大限にできることだ」と聞こえてしまうが、そうだろうか。

 日銀の論理は一見、説得力を感じさせるのだが、経済の正常な姿を考えることなしに現状維持を当然視させてしまうレトリックだといってよい。