
熊野英生
コロナ後、景気回復の足取りは予想以上に遅くなる可能性がある。高齢者を中心に消費者心理は慎重なうえインバウンド需要の早期回復も見込めない。需要刺激をしようにも感染を再発しかねず政策対応はジレンマを抱える。

新型コロナウイルスの感染拡大防止で政府は人と人の接触機会を7~8割減らすことを求めているが、それには通勤者数を減らすことが鍵であり、企業や事業者に休業を受け入れてもらうには一定の所得補償が必要だ。

日本型雇用の見直しの議論が出ているが、すでに終身雇用や年功序列は変わってきている。だが成果主義や即戦力化を重視するあまり、仕事や働き手のスキルにかかわらず職務給化を進めるなどの無理筋も少なくない。

働き方改革が生産性上昇につながるという論は疑問だ。残業を減らして働き手が自由に裁量的に使える時間を作り、その時間を社外での「学び」の活動にあてることが生産性向上につながる。

日本企業では「リカレント教育」を受けても、待遇の変化につながることは少ない。だが企業の成長は、リカレント教育を始めた従業員をどう扱うかで「差」が出る時代になる。

生産性向上では、個人の努力を組織全体に結び付けることが課題だ。働き手それぞれのモチベーションを高める動機づけが重要であり、「学び直し」のリカレント教育の機会を増やすことが鍵になる。

金や原油、ビットコインの価格上昇が投機熱の高まりを感じさせるが、背景には大統領選を控えた米国の「早過ぎる利下げ」姿勢がある。世界を巻き込み過剰債務、バブルの兆候が出始めている。

景気減速が懸念される中、黄金週間が「10連休」になったことで、旅行支出だけでもGDP(4‐6月期)は0.2%ポイント押し上げられる計算だ。「カネのかからない景気対策」として“大型連休”が定着する可能性もある。

景気動向指数で景気の基調判断が「下方修正」されたが、米中貿易戦争や中国経済の今後を考えると、「景気後退」の判断を急ぐことはない。10月の消費増税も再々延期する必要性はない。

2019年は景気減速を懸念する声もあるが、改元で祝日が増えるなどの「元年効果」や増税対策で外食産業が宅配を充実させるなど、消費分野のビジネスチャンスが増え消費拡大につながる可能性がある。

消費増税の景気への影響を少なくするのに最大の効果が期待できるのは賃上げだ。だが消費増につなげるには、社会保険料負担などを抑えて可処分所得が増えるようにする取り組みが合わせて必要だ。

日本の労働生産性はなぜ低いのか。国際比較をして浮き彫りになるのは、製造業で突出した生産性を持つ牽引力になる産業がないのと、短時間労働者の賃金が低く、しかもその割合が増えていることだ。

米中間で追加関税による制裁と報復合戦が始まったが、問題は貿易だけにとどまらない。米国は金利上昇・ドル高による景気への影響が懸念され、一方で中国は産業構造の高度化が遅れかねないジレンマを抱える。

消費者物価上昇率が1%前後で安定してきた。これは今の経済のもとで多くのエコノミストが予想するインフレ率と同じだ。日銀は追加緩和で動くのではなく、むしろ「2%目標」の修正を考える時期だ。

秋の中間選挙を意識してトランプ大統領が中国などの貿易赤字国への高関税措置を打ち出したが、「リスク」はそれだけではない。日本も「まさか」のシナリオが起こることへの準備をしておく必要がある。

5日の米国株式市場が「過去最大の下げ幅」になるなど、日本や欧州でも連鎖安になり、低金利を背景に上昇を続けてきた株式市場は一転、世界同時株安に見舞われた。08年の「リーマンショック」の再来になるのか。鍵を握るのはFRBの舵取りだが、新任のパウエル議長は早くも正念場だ。

好況の実感が乏しい長い景気拡大と企業の高収益が続くのは、企業が、売り上げ増が期待できない中で、賃金や経費などの固定費を抑えて収益基盤を強くする不況期と変わらぬ経営になっているからだ。

政府の「人づくり革命」は選挙や予算獲得を意識して打ち出された感が否めない。重要なのは、人を大事にする日本的経営を引き継ぎ、これまでの人材育成手法を時代の変化に合わせたものに変えていく企業の「人づくり改革」だ。

人口減少のもとで成長を続けるには生産性を高めることが必要だが、その二つの方法のうち大事なのは、新しいことに挑戦して稼ぎを増やすことだ。そのためには成功確率の高い仮説作りや収益機会を探すコストを少なくして、「不確実性」を管理することがカギになる。

日本銀行の量的緩和策の縮小が始まれば、長期金利急騰などの混乱を懸念する声もあるが、企業の設備投資資金などの需要は落ちていてお金は余っている。金利が上がりにくい経済構造に変わっているが、心配なのは低金利のもとで政府が財政再建をさぼることだ。
