
田中 均
2024年は1月の台湾総統選をはじめロシア大統領選などが続くが、とりわけ注目は米大統領選だ。ウクライナ戦争やイスラエル・ガザ戦争、台湾問題の動向が米大統領選を左右すると同時に「トランプ再登場」もあり得る選挙結果は国際政治に大きな影響を及ぼす共振の構図だ。

ウクライナ戦争に続きパレスチナ・ガザ地区へのイスラエル軍侵攻を止められなかった米国は国内重視の「内向き」姿勢を世界に印象付けた。来年の大統領選挙で「トランプ復活」となれば米国の姿勢は世界の不安定化要因になりかねない。

ハマスによるイスラエル襲撃がイスラエルの本格的な報復攻撃につながれば、中東情勢の再流動化だけでなく、ウクライナ戦争に続いて米欧VSロ中の対立の図式になる可能性があり、世界の分断が一段と深刻化する懸念がある。

世界はここにきて中国の変調、グローバルサウスのリーダーとしてのインドの躍進、ロシアと北朝鮮の連携強化など流動化や秩序変化の予兆を感じさせる。日本はアジア諸国との関係をてこに軍事衝突などの回避に取り組む必要がある。

米中対立やウクライナ戦争が長期化する中、世界は軍事力増強と経済相互依存関係の弱体化が進み、外交の影の薄さが際立つ。この状況で日本は「台湾有事」を防げるのか。米中それぞれと深い関係を持つ日本の外交力が改めて問われている。

ウクライナ戦争で国際社会は分断が進み安全保障や経済のコストは重いものになっている。戦争を止めるとしたらロシアと米国の内政の変化だが、両国とも大統領選を控える中で停戦・和平に向けたベクトルが強まるかは見えない。

トランプ前大統領が機密文書持ち出しなどの罪で起訴されたが、2024年大統領選の共和党の有力候補という位置は揺るがない状況だ。トランプ氏がいまだ影響力を持つ背景にはアメリカで取り残された非エリート、非エスタブリッシュメントの逆襲、既成政党不信がある。

広島G7サミットはウクライナ軍事支援などで結束強化に成功したが、米国の存在感が薄かった一方でグローバルサウス諸国の参加や欧州主導の対中政策変化など国際関係の構造変化を如実に示した。

広島G7サミットの3つ主要課題はロシアのウクライナ侵攻への対応と対中国問題、核軍縮だ。「分断の時代」にG7の「結束強化」は重要だがグローバルサウスとも連携し中ロと対話維持を探ることが必要だ。

北朝鮮が新型ICBMなどの発射実験を繰り返すのは、米中対立激化やウクライナ侵攻を巡るロシアと西側諸国との関係緊迫など国際政治構造の変化が北朝鮮に有利に働くと判断しているからと考えられる。朝鮮半島情勢でも鍵を握るのは中国だ。

習近平新体制は習総書記の独裁の確立とともに、治安、金融、ハイテクの三つ分野を共産党直轄にするなど「米中衝突」に備える色彩が色濃い。今後は中国経済の成長立て直しなど3要因が鍵を握る。

中国気球の米領空への侵入・撃墜事件は米ソ冷戦を決定付けた米国のU2偵察機撃墜事件を彷彿とさせる。対話軌道に戻ったばかりの米中関係の行方は台湾が近い日本にも重大関心事だ。

日米首脳会談で中国を念頭に日米の「統合的抑止力強化」が合意されたが、日本は中国とも歴史的、経済的に深い関係だ。外交を活性化し対中関係改善努力を同時並行的にする必要がある。

反撃能力の保有や防衛費大幅増強は、「軍事大国にならない」としてきた日本の外交姿勢を変え、教育や科学技術予算の拡充を抑えかねない一方で、実際に中国などへの抑止力を強めるのかは疑問だ。安保政策大転換の是非を十分に議論する必要がある。

北朝鮮の今年に入っての50発を超える弾道ミサイル発射は核ミサイル能力の示威だけではなく、中国やロシアにも依存しない独自の軍事力を持つことで「金王朝」を維持し続けるという思惑がある。

国際関係は米国の抑止力衰退や自由貿易から軍事安全保障優先で「分断の時代」に入った。日本では防衛力増強の声ばかりが高まるが、米国との緊密な関係を武器にした外交戦略を忘れてはならない。

参院選後の岸田政権の外交の最大課題は米国と中国との距離をどう取るかだが、米中はインフレと成長減速がアキレス腱になっている。対中戦略では抑止一辺倒でなく経済連携を強める重要性が増す。

バイデン大統領がロシアや中国を念頭に掲げる「民主主義と専制主義の戦い」は中間選挙に向け求心力維持のための国内政治の思惑がある一方で、対決をあおって世界の分断を進めてしまう懸念がある。

ウクライナ戦争が長期化しそうな一方で、米中は中間選挙や党大会という「政治の季節」を迎える。国内を意識して双方が強硬姿勢を取り、長期化が予想されるウクライナ問題も対立先鋭化の要因になる懸念がある。

ウクライナ戦争は軍事的緊張だけでなく、対ロ制裁による経済やエネルギーのデカップリング、ネット空間の遮断など冷戦期を超える世界の分断をもたらしかねない。G7を中心に分断緩和の外交に全力を注ぐ時だ。
