
田中 均
2019年は、米トランプ大統領が再選をにらんで「自国利益優先」の強硬策を打ち出し多国間の協調体制が後退するほか、米中対立激化や欧州政治の流動化などの「6つの地政学リスク」が国際緊張を高める。

米中貿易戦争は11月末の米中首脳会談を経て収束に向かう可能性が高いが、「民主主義下の市場資本主義」と「共産主義下の国家資本主義」の対峙は長期化し米ソ冷戦とは異なる形で米中緊張関係は続く。

2回目の米朝首脳会談は年末近くに開催されそうだ。米国は北朝鮮の「段階的非核化」に応じざるを得ない可能性が高いが、日本は平和体制の構築に当事者意識を持ち、能動的に動くべきだ。

安倍首相のプーチン大統領との首脳会談の多さが際立っているが、平和条約締結優先を表明した「プーチン提案」のようにロシアのペースに引き込まれているように見える。日中関係強化など、外交の優先度を見直すべきだ。

相手に力を見せつけて米国に有利な取引に持ち込むトランプ流アプローチが世界にリスクを生んでいる。日本の対米外交は戦略を見直さざるを得ないが、向き合い方はある。自民党総裁選でも議論が行われるべきだ。

米中貿易戦争の「出口」はあるのか。トランプ大統領の「取引外交」が狙うのは、秋の中間選挙までに北朝鮮に非核化の道筋を明確にさせるため、中国の協力を得ることで矛先を収めようという思惑にも見える。

米朝首脳会談での「非核化」合意はどう実現するかで不安が残ったが、一方的な批判や主張では解決は難しい。拉致問題解決や日朝間の関係正常化も北朝鮮と「共同で行動」することを基本戦略にすべきだ。

米国はイラン核合意からの離脱を表明したが、6月開催が決まった米朝首脳会談でも非核化を巡り北朝鮮と相違が残る。うまくいけば世界秩序を変えるが失敗すれば中国やロシアを巻き込む「第二の冷戦」になりかねない「ハイリスク・ハイリターン」の外交だ。

「対話モード」が急展開する北朝鮮問題で“蚊帳の外”に置かれたり、ロシアの元スパイ暗殺事件では欧米と共同歩調を取らなかったりと、日本の“孤立”が目立つ。自己の主張は声高に言うが、結果を作る算段のない外交では「ジャパンパッシング」を招く。

米朝首脳会談が合意されたが、両首脳とも発想や言動が予測し難く、米朝の交渉スタイルは大きく違う。失敗すれば朝鮮半島の緊張が極限に達する。会談の成否を左右する「4つのリスク」を認識すべきことだ。

朝鮮半島情勢や中国の将来にはいくつもの「不確実性」がある。外交安保政策の基本は不確実性をきちんと認識することだ。それによって、圧力や力での対抗だけでなく、対話や連携、関与といった多様なやり方が見えてくる。

2018年の「地政学リスク」を展望すると、米国第一主義を掲げるトランプ政権や核実戦配備に一段と近づいた北朝鮮、宗教対立で不安定化する中東など、昨年、生まれた国際社会の「脆弱性」が「現実の危機」につながるリスクがあちこちにある。

習近平総書記が長期体制を築いた中国は、社会は管理色を強める一方で、経済は大胆な改革開放を進める気配だ。対日関係も雪解けムードが漂う。日本が「対中けん制」続けるのでは、双方が失う利益は大きい。

トランプ大統領のアジア歴訪で見えたのは、外交も経済問題も二国間の「ディール(取引)」で国益を確保する現実的なアプローチだ。米国の「取引的姿勢」は米中関係や東アジア情勢にも影響を与えざるを得ない。日本も対中政策の見直しを検討する時期だ。

衆院選後の外交は、北朝鮮問題やトランプ大統領訪日、中国との関係改善などの課題が山積だ。「創造的外交」を進めるには、「官邸一強体制」が闊達で多様な外交論議を阻害していることはないのか、このことも改めて考える必要がある。

核・ミサイル開発を止めようとしない北朝鮮により圧力をという強硬論一色の報道が続くが、外交は「対話と圧力」が一対だ。北の「非核化」では日米韓だけでなく中国も共通の利益を持つ。4者で問題解決の出口戦略を協議するため、日本は主体的な役割を果たすべきだ。

武力挑発を続ける北朝鮮の金正恩第一書記に対して、軍事手段も排除されていないとする米国のトランプ大統領との激しい応酬は、本当に軍事衝突になる可能性が否定できない。「大本営発表」と「ツイート」を通じ、双方が相手の意図を読み違えるなど、計算違いや偶発的要因による衝突が起こる「5つの理由」がある。

年後半の世界を展望すると、トランプ政権への求心力低下から、朝鮮半島や中東、さらに米国と距離を置き始めた欧州などでさまざまな地政学リスクが高まる。安倍政権への支持率急落で不安定化する日本だが、米国一辺倒の時代の発想から抜け出し、リスクに備えた緻密な戦略作りを進めることだ。

加計学園などの問題で明らかになった官僚の「忖度」は、民主主義社会の「適正手続き」を損なう。官邸機能強化は悪いことではないが、強い官邸とバランスする党やメディアの対抗力が必要だし、強い権力を持つほど、何よりも官邸には透明性が必要であり、異論を聞く寛容性が求められる。

一触触発の緊迫が続く中で、北朝鮮が14日も新型とされるミサイル発射実験に踏み切った。朝鮮半島を安定させる手立てはないのか。米韓日を中心に中国を説得しながら、北朝鮮に強い圧力をかけ続け、6者協議での「非核化の合意」(2005年9月)履行させることが、唯一の現実的な手段だ。
