
門間一夫
「実質2%、名目3%の成長率」や「2%物価目標」は実現の見込みのない数字であり、過去の議論の「なごり」でしかない。実態と乖離した前提や目標を掲げる経済運営は政策の信頼を損ねる。

2022年中に「3回の利上げ」が予想される中で米長期金利は総じて安定している。インフレ率が中期的にも上がるとは限らないし、コロナ後、米国の潜在成長力は低下する可能性もある。長期金利は上昇しても限定的ではないか。

「成長と分配の好循環」の実現は賃金を上げることにかかっている。そのためにリカレント教育など「人への投資」への支援、介護や保育、教育分野での待遇改善など、政府がやれることは少なくない。

日本銀行が世界的課題である気候変動対策に乗り出すのは「当然」だが、金融政策の中立性からやれる手段や効果には「限界」がある。中央銀行の責務を巡る「根本的な問題」も考えさせられる。

消費者物価上昇率の急伸でFRBは「2023年内の利上げ」を示唆したが、低インフレをもたらす経済の基本構造は変わっておらず、「高インフレ時代」へのレジーム転換が起こらないばかりか、2%物価目標の達成すら保証されていない。

先進国では低金利が常態化しつつある。バブル的な現象や行き過ぎたリスクテークによるノンバンクの破綻などが起きているが、金融政策でバブルを抑えるという発想は非現実的だ。

日本銀行の「金融緩和の点検」で本来、議論されるべきは「2%物価目標」をどうするかだ。だが「世界標準」になっているだけに、見直しの鍵を握るのは今後の米国の物価動向とFRBの方針だ。

2021年の経済を占う鍵は新型コロナの感染動向に加え、気候変動へ対応や富の格差が拡大し続ける資本主義のあり方がどう変わるかだ。だが「ウイズコロナ」も富の偏在も大きく変わりそうにはない。

新型コロナ収束後、世界経済は2023年以降、巡航速度の経済成長率に戻る見通しだが、日本は長期の潜在成長率がゼロ近辺にと一段と低下する可能性が高い。成長戦略の発想を転換することも考えるべきだ。

「ため込み過ぎ」と批判されてきた日本企業の内部留保がコロナ禍で評価が一変した。だが、保守的な財務戦略の裏に日本経済の構造的な問題が隠れている可能性はコロナ後を展望するうえでも意識したほうがいい。

新型コロナウイルス対応で財政金融政策が総動員されているが、コロナ後はインフレよりデフレが懸念される。働き手の処遇改善や将来不安の解消を重視する発想へ社会全体が大きく変わらないと、高成長時代のようなことにはならない。

コロナ不況には需要喚起策は使えない。雇用や所得への支援を通じて経済への打撃を少なくすることが重要だ。低インフレ・低金利は長期化し財源の制約を意識する状況にはない。対策には「現代貨幣理論」が役に立つことが多い。

7年間のアベノミクスのもとでの経済成長率は年平均0.9%にとどまる。個人消費の「ゼロ成長」が経済の足を引っ張っている。このまま低成長でもやむを得ないと考えるか、それを望まないなら「家計重視」の成長戦略に切り替えることだ。

日本の低インフレの理由について「慣性の法則」以外はよくわかっていない。したがって「2%物価目標」を確実に実現する手段はない。マイナス金利を10年続けないためには、日銀は「経済が正常なら金利も正常に」を政策の基本にすべきだ。

成長戦略として「生産性革命」やイノベーションが言われているが、「合成の誤謬」が起きることがあり、国全体の成長力強化には必ずしもならない。GDPを増やす王道は「量的質的雇用創出」だ。

主要国の中央銀行が緩和に再びかじを切り始めたが、経済は標準的な理論通りには動いていない。緩和を進めても家計への“課税強化”などでむしろ政策目標から遠ざかる「逆効果」のリスクを意識すべきだ。

2%インフレ目標に届かないまま「次の景気後退」も意識して、米Fedが金融政策の新たな「枠組み」の議論を始めたが、本当に必要なのは金融政策が担う「責務」を巡る根源的な議論だ。

財政赤字を積極的に容認する「現代貨幣理論」が大論争になっているのは、かつてのように物価が上がらなくなった先進国経済の財政金融政策の在り方を問うものだからだ。「異論」では済まされない問題提起だ。

「毎勤」の不正調査は「賃金偽装」というより、もっと次元の低い統計作成におけるガバナンス欠如の問題だ。だが統計の公表の仕方や使い方でアベノミクスへの忖度と言われても仕方がない落ち度があったのは確かだ。

「2%物価目標」を目指した異次元緩和策は実体経済から見れば不要な政策であり、むしろ将来のリスクを高めている。2019年は日銀が2%目標をどううまく"形骸化"するか、真価を問われる年になる。
