前回、保険監督者国際機構(IAIS)の事務局長選挙で事前の予想を覆し、選出された過程を述べた。今回は、勝てるわけがないと思われたこの選挙になぜ勝てたかを考えてみたい。ここでのポイントは、重要な国際会議の交渉で成果を上げるカギでもある。
石の上にも10年
IAIS事務局長選挙ではほとんどの人が、米国代表である相手の候補が選ばれると思っていた。客観的条件から見て私が選ばれるはずがなかった。しかし、私は自分が選出されることがIAISのためになると確信していた。しかも、皆がそれを理解してくれると信じていた。
その確信が行動につながった。自分よりはるかに格上の人物が相手でも怯まず出馬し、各国の保険当局のトップ一人ひとりに会って支援を依頼し、堂々と選挙戦を展開することができた。自分への自信・確信は、どんな国際交渉でも議論を進める上での土台となる。
では、自信家でもない私がなぜそのような確信を持てたのか。私はIAIS勤務以前のOECD保険委員会勤務の時代から、保険規制を通じた国際協調の意義や可能性に限りない魅力と憧れを持ち続けていた。特にIAIS事務局の創設に参画して事務局次長として務めた5年間はIAISを育てることに打ち込み、その行動が組織の確立や保険監督基準等の規制基準の成立として結実した。これらの経験により国際保険規制の専門知識を身に付け、広いネットワークを築き、IAISという組織を自分で運営できるという自信・確信になった。すなわち、自分のやりたいことをひたすら続けていると、それが自信・確信につながるのである。
石の上にも10年。保険規制について何も知らずにOECD保険委員会で働き始めてから10年後に、IAIS事務局長に選出された。