第2のAIG危機を防ぐために、保険の国際機関IAISが踏み切った「荒治療」の舞台裏Photo:PIXTA
*本記事はきんざいOnlineからの転載です。

 国際基準制定主体の最重要任務は、国際交渉を通じて、市場の健全性や契約者保護の向上につながる国際的な監督基準を作ることにある。その交渉は必ずしもゼロサムゲーム(一方の得が他方の損)ではなく、グローバルに価値ある基準を制定することが最大の目的である。では、実際にこうした国際交渉はどのように進められているのか。今回は保険のグループ組織に関する監督を例に、国際基準が合意するまでの過程を説明したい。

危機の再発を防ぐための連結ベースの保険規制

 国際的に活動する金融機関の多くはグループ組織の形態をとっているため、国際規制基準を作るに当たっては、親会社と子会社を合わせたグループ全体の連結ベースの規制が重要な視点となる。その背景の一つとして、2008年の世界金融危機で起きたAIGの信用不安の震源が、監督の目が十分に及ばなかった保険以外の金融取引(デリバティブ取引)にあったことが挙げられる。金融危機の再発を防ぐには、グループ全体のリスクを包括的かつ一元的に把握する必要があり、そのためには連結ベースでの経営を監督できる手段を監督当局が持っていなければならない。

 当時、保険グループ全体を監督当局が直接監督する規制の根拠がなかったことから、保険監督者国際機構(IAIS)では連結ベースで規制できる国際基準の策定を急ぐ必要があると考えていた。しかし、影響力のある国がその規制基準に対して慎重だったことから、策定作業は難航した。

 国際会議で交渉して物事を決めるとき、何について、いつまでに結論を出すかをまず合意する必要がある。連結ベースの保険規制に関して言えば、グループ親会社を監督当局が直接監督する国際基準を作るかどうか、またその決定をいつまでに下すかをIAIS内部でまず固めなければならなかった。