学問と社会を紐づけ、基本を徹底的に問うハーバード
ムーギー 投資家ミーティングなどで竹中先生のお話を伺っていていつも面白いのは、どんなご講演も社会のリアルイシューからスタートし、その学問的背景や理論的解説につなげてくださる点です。社会と隔絶された机上の理論ではなく、いま世の中で起こっていることと紐付けて教えてくださるから、現実と学問がリンクする。だから、「学ぶことの意味」も腹に落ちるんです。
竹中 あえて乱暴な言い方をすると、日本の大学はつまらないですよね。私だって、初めてミクロ経済学の無差別曲線の話を聞いたときは「なんだこりゃ?なんの意味があるんだ?」って混乱しましたよ(笑)。
私の中で学問と世の中が初めて結びついたのは、ハーバード大学の授業でした。ベンジャミン・フリードマンやマーティン・フェルドシュタインの授業は、本当にぜいたくな時間でしたね。
ムーギー ハーバードの教育は、どのような点が日本の大学と違いましたか?
竹中 まず、ハーバード大学の学生ってつまらない質問をするんですよ。「減価償却って何ですか?」とかね。
ムーギー ええ?世界最高ランクと言われる大学で?それは、教授ではなくてネットで調べるか、せめてチューターに聞いて事足りるレベルですよね。
1977年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。INSEADにてMBA(経営学修士)取得。大学卒業後、外資系金融機関の投資銀行部門にて、日本企業の上場および資金調達に従事。その後、世界で最も長い歴史を誇る大手グローバル・コンサルティングファームにて企業の戦略立案を担当し、韓国・欧州・北欧・米国ほか、多くの国際的なコンサルティングプロジェクトに参画。2005年より世界最大級の外資系資産運用会社にてバイサイドアナリストとして株式調査業務を担当したのち、香港に移住してプライベートエクイティファンドへの投資業務に転身。フランス、シンガポール、上海での留学後は、大手プライベート エクイティファンドで勤務。英語・中国語・韓国語・日本語を操る。グローバル金融・教育・キャリアに関する多様な講演・執筆活動でも活躍し、東洋経済オンラインでの連載「グローバルエリートは見た!」は年間3000万PVを集める大人気コラムに。著書に『一流の育て方』(共著、ダイヤモンド社)、『世界中のエリートの働き方を1冊にまとめてみた』『最強の働き方』(ともに東洋経済新報社)がある。
竹中 私も最初は、そのレベルの低い質問に愕然としました。日本だったら、間違いなく白い目で見られるでしょう。でも、それはレベルの低い質問ではなく、基本の問いなんです。ハーバードではみんな、基本を徹底的に聞くんですよ。そしてノーベル賞を受賞するような教授が、汗をかきながら一生懸命説明する。ものすごく新鮮で、これこそが教育だと衝撃を受けました。
あと、フリードマンもフェルドシュタインも、決して小難しいだけの話はしません。「こちらの国の銀行は金利何%、物価上昇指数が何%。あちらの国の銀行は金利何%、物価上昇指数が何%。さあ、どっちに預ける?……これが金利裁定の基本です」と、リアルに紐付けてわかりやすく話してくれる。
ムーギー ああ、竹中先生の教え方の源流はそこなんですね。
竹中 そうですね。最近、答えのない問いを議論する「アクティブラーニング」がもてはやされていますが、教育界のメインはまだまだ「答えを教える教育」。
私はよく学生に「あなたたちの勉強は全然大変じゃない。だって、全部正解があるんだから」と言うんです。世の中の問題には、ほとんど正解がありませんからね。たとえば、キムさんが誰と結婚するのが正解かなんて、わからないでしょう?
ムーギー いやあ、どんな選択をしても間違いかもしれません(笑)。
竹中 正解だと思って選んでも後悔したりするしね(笑)。でも、たとえば増税するかどうかといった答えのないイシューについて、答えがないからと考えることをあきらめるのではなく、きちんと議論を重ねないと世の中はよくなりません。そして、議論のための素材は目の前にいっぱいあるんです。
ムーギー だからこそ、いい素材をきちんと選別できる目が必要ということですね。
竹中 そのとおり。素材はいくらでもあるのに、それを見る目が市民社会やメディアにないんですね。その「見る目」を養う役割は、教育が担っているんです。