長岡技術科学大学大学院の木村悟隆准教授(生物機能工学専攻)は、2015年9月の「関東・東北豪雨」での鬼怒川決壊(常総水害)以降、何度も被災地である茨城県常総市に足を運び、住宅の被害を調査してきた。そこで目にしたものは、外からでは分からない様々な状況だった。水害の後にも続く目に見えない被害について報告してもらった。(「リスク対策.com」に2016年1月掲載)

 水害は目に見えない。

「そんなバカな! 常総水害ではあれだけ広大な地域が浸水したではないか」と思う人がほとんどだろう。

 水が引いた直後は臭いや砂ボコリがあったものの、今、常総市を訪れても一見正常にみえる。地震と違い、傾いた家も見当たらない。破堤や越流の直撃を受けた極狭いエリアを除けば、新築間もないハウスメーカーの家は何もなかったかのようにたたずんでいる。しかしまだ、災害は続いている。今なお、被災した方は多くの悩み、ストレスを抱えている。

消石灰は何のために撒く?

 避難先から帰って最初に行うのが、被災した家財の廃棄、そして室内の泥の掃除だ。

 大変な作業であるが、ここまで終わると、そのまま住み続けられると多くの方は思ったことだろう。

 消毒はしなければならないと知っていた人は多い。行政も消毒剤を配布した。その一つが消石灰である。水害後、屋外や床下に撒くと、白くなって如何にも消毒した気分になり安心する。お清めの塩のようだが、本当に効果があるのだろうか? 長らく水害ボランティアをしている方でも疑問に思っている方は多い。

 実は、茨城県薬剤師会の消毒マニュアル「水害と消毒」では、消毒薬としてはエビデンスが不明として推奨されていない!