豊洲新市場を巡って、地下にある“空間”の存在が大騒ぎになっている。そもそも、この“空間”は技術的に必要なもの。それがなぜ、こんな異様で不可思議なものとして報道されるようになったのか?そこには小池百合子都知事の巧みな情報操作術がある。

「地下ピット」か「地下空間」か?
豊洲新市場を巡る表現の食い違い

 豊洲新市場の「盛り土」報道が過熱していくなかで、日本経済新聞の17日付朝刊でなんとも奇妙な記事が出ていた。

豊洲新市場の地下問題を巧みな言葉遣いで”大騒ぎ”に導いた小池百合子・東京都知事。自民党都議との全面対決が、知事の念頭にはあるはずだ   写真:日刊スポーツ/アフロ

「一面に水、漂う臭気 豊洲地下空洞公開」という見出しのその記事では、「地下空洞がつくられた経緯が不透明」とし、青果棟などの地下が報道陣に公開されたことを受け、そこへ足を踏み入れた記者が以下のようにリポートしている。

《階段を下りていくと泥の臭いがしてきた。「地下ピットに入る場合は原則2名以上とする」。酸欠や閉じ込めへの注意を促す触れ書きを横目にドアをくぐると、青果棟の地下に広大な暗闇が目の前に広がった》

 記者の視界に入った注意書きにあるように、施設管理者である東京都は、青果棟の下にあるものを「地下ピット」だと捉えている。「地下ピット」とは、建物の配管が敷設されておりメンテナンスをする空間だ。豊洲新市場のような巨大施設から一般のマンションまでつくられているのが普通で、ない方がおかしい。

 汚染対策の工法を検討する2008年12月の技術会議で東京都側が、「万が一、地下水から汚染物質が検出された場合に浄化が可能となるよう、建物下に作業空間を確保する」と説明していたことからも分かるように、これは不測の事態に備えて重機を入れることも想定した「天井の高い地下ピット」である。

 事実、この報道陣への公開と時を同じくして、東京都中央卸売市場は、「豊洲市場地下ピット内の水質調査の結果について」というプレスリリースを出している。都としては、あれは「地下ピット」以外の何物でもないのだ。

 だが、前述の日経記事で「地下ピット」という響きが登場するのは、この「触れ書き」の描写のみ。見出しのような「地下空洞」や「地下空間」という言葉が用いられているのだ。ちなみに、同じ現象を取材した日刊工業新聞では「都中央卸売市場、豊洲新市場の地下ピット公開」(9月19日)という見出しとともに、「地下ピット」という表現を記事中で用いている。

 日経記者が、「地下ピット」という言葉の意味を知らないわけがない。なぜこの記者は、都の説明を無視したのか。これまでの経緯を振り返れば、論理的にも「地下ピット」は妥当な表現。それをあえて避け、なぜ「地下空間」というミステリアスな響きを用いたのか。

 なんて言うと、日経の報道姿勢に難癖をつけているように思われるかもしれないが、そういう意図はない。なぜなら、このような傾向は日経だけではなく、ほぼすべてのマスコミで確認されているからだ。