外資系ファンドの来訪

 岐阜の山深い街を、その地におよそ似つかわしくない端正な顔立ちの男達が歩いていた。漆黒のスーツに身を包み、一分の隙も見せずに注意深く辺りを探っている。彼らは、ちょっと前なら「ハゲタカ」と呼ばれた外資系ファンドの面々である。

 彼らがこの地に来た理由はただ一つ、上場企業X社の創業家一族が居を構えていたからだ。創業者一族は高齢者ばかりでいずれも80歳を超えているが、眼光鋭く、発する言葉はX社の経営陣に重くのしかかる。

 今年行われた株主総会で、創業家一族が全ての取締役、執行役員、監査役から外れ、一族は大株主ではあったものの、企業に対する直接的な支配権は失っていた。その後、傍目には岐阜の山奥で隠遁生活を送っているかのように見えるが、それは決して彼らの本意ではなかった。

 彼らの唯一の希望は、創業家一族最後の生き残りであるSが、現在、経営企画部の部長を務めていることだった。そして、創業家一族の復活とX社の支配権の奪取こそ、彼らの描くシナリオであった。

 高い木立を抜けてしばらく歩くと、大きな門が現れた。重い扉をゆっくり開けた男たちの眼前には、いつからそこへ立っていたのか、3人の老人達が待ち受けていた。

創業家一族の苦悩と葛藤

 株主総会以降、新経営陣となった取締役達の一番の苦悩は、創業家対策であった。上場企業であるX社は、以前より金融商品取引所や幹事証券会社を通じて、創業家一族による歪んだ経営支配からいち早く脱却し、透明性の高いコーポレートガバナンス(企業統治)を図るよう繰り返し勧められていた。