地震時の家具の転倒防止には壁固定が最も効果があると言われている。ところが、家具を固定するためには壁にネジ穴を空ける必要があり、原状回復が借り手側に課せられている賃貸住宅の場合ではなかなか難しいという問題がある。弁護士の中野明安氏はこうした現状に異を唱える。(2016年10月1日開催「~首都圏でもし大震災が起きたら?!~第57回「法の日」週間記念行事 法の日フェスタ」における中野氏の講演内容から)
「原状回復が借り手側に課せられている賃貸住宅でも、エアコンを設置するためのビス跡は『通常損耗(※)』と判断され賠償義務はない。一方、家具転倒防止措置のために壁に空けるネジ穴は通常損耗に当たらず、現在では原状回復のために借り手が修繕しなければいけない可能性が高い。これではなかなか家具転倒防止が普及しない」と話すのは、「災害復興まちづくり支援機構」を設立し、災害時に弁護士として多くの被災者の相談に応じてきた弁護士の中野明安氏。
「東京都が発行する『東京防災』でもあれだけ家具の転倒防止には壁固定が最も効果があると紹介しているのだから、壁固定によるネジ穴もエアコンのビス跡と同じように通常損耗と扱われなければおかしいのでは」と続ける。
エアコン設置でのネジ穴と
何が違うのか
中野氏によると、両者の違いは「社会の認知度の違い」だけであるという。多くの家庭で、エアコンのネジ穴は通常必要なものとされている一方で、家具の転倒防止措置のネジ穴は多くの家庭で普及しているものではなく、したがって必要なものと認識されていない。そのため賃借人も実践しなくなり、ますます社会的にも認知されないという悪循環の構図ができあがってしまっているという。
「地震では多くの人が家具の転倒により大けがをしている。そのような残念な結果を法律的に防ぐには、転倒防止措置として空けたネジ穴などは、通常損耗として扱われ、原状回復不要という社会の常識を作り上げること。それが法律の解釈を変えていくことになる」と強調する。