2008年からのブームによって、今や居酒屋ドリンクの定番に名を連ねるハイボール。なぜ、突然ブームが起こったのか。背景には、不況に苦しんだ飲食店の姿があった。(週刊ダイヤモンド2014年11月1日号特集「世界が認めたニッポンの酒」より)

「ここの食事、安過ぎない?」。都内の飲食店でテーブルを囲んでいた若い女性の一人が驚きの声を上げた。

 そこは最近、東京都内を中心に店舗を増やしている“ハイボール酒場”。一般的な角ハイボールの他、山崎や白州といった高級ウイスキーを使ったプレミアムハイボール、変わり種のラムネキャンディハイボールなど、豊富なラインアップをそろえる。

都内某所のハイボール酒場。閉店間際にもかかわらず、店内は若者を中心ににぎわっていた Photo by Hidekazu Izumi

 バリエーションの多さだけでも目を見張るものがあるが、驚くべきは、料理の安さだ。ギョーザやねぎ焼きなどの料理が400円前後で提供されているのだ。

 なぜそんな破格の値段で料理を出せるのか?

 そもそも、ハイボール酒場のような、ハイボールを売りにした業態が増えだしたのはここ数年のことである。2008年にブームが始まる前は、飲食店のメニューでハイボールを見ることは、むしろまれであった。

 ブームに火を付けたのはサントリー(現サントリー酒類)だった。サントリーといえば、芥川賞作家の開高健などが所属した宣伝部が有名だが、ハイボールブームもサントリーのマーケティング戦略の妙と語られることが多い。

 確かに、テレビコマーシャルに、人気の女性タレントを起用して、“おじさんの飲み物”というかつてのハイボールのイメージを一新させた手腕は見事であった。