商売人は朝から晩までお金のことばかり考えている

――お金に関する考え方はご両親の影響もありますか?

三田 もう基本、商売屋っていうのは、年がら年中、朝から晩まで頭のなかはお金のことだけ(笑)。「銀行がどうこう」「利息がどうした」とか。あと、親戚もほとんどみんな町内の商店街にいっぱいいたんでね。カメラ屋だったり、薬屋だったり。親戚が集まると、みんな金の話、してましたね。「どこどこの銀行の支店長が替わった」「あそこの融資、結構貸してくれるぞ」とかね。そんなことしかしゃべらないですよね、商売人っていうのは。

――いま、書店さんに行くと、お金に関する本って、すごくたくさんありますよね。「お金とは何なのか」「汚いのか、きれいなのか」、いろいろ言ってますけど。そういう議論ができること自体、余裕のある証拠なんでしょうか? 商売人は、「お金とは何か」なんて考えるまでもなく、「生きるため」であったり。

三田 んー、あのね、好きなんですよ、商売やる人はね、とにかく「儲かる」というのが(笑)。「売上が上がる」とかね。若いみなさんは、ほとんど商売やったことないと思うけど、やっぱり売れるとね、燃えますよ。それはもうね、お客さんがお店に入ってきて、物を買ってくれて、現金を置いていってくれるんですから。すごいハイテンションになりますよ。

 やっぱり、なんていうかな、飲食業とかでバイトの経験はあるかもしれないけど、暇なのよりお客さんがワンワン来るほうが燃えるでしょ? お店のみんなも「ヨッシャやるぞ!」って感じになって。まぁそういう、ある種「スポーツ感覚」ですね。暇でお茶入れてるよりは、忙しいほうがなんか活気があって、部活感覚になるじゃないですか。そういうものだと思うんですよね。

 さっきそこに金(きん)があったけど、お金見ると、やっぱりね、気持ちが燃えますよね。

――金? あ、本当だ。へぇ。

インタビューの場にあった金(きん)。持ち上げるとずっしりと重い

柿内(同席していたコルクの担当エージェント) 本物ですから。

――なんでここに金(きん)があるんですか(笑)?

柿内 先週買ったんです。

――買ったんですか。へぇ。これでいくらなんですか。

柿内 500グラムで230万。

――えぇ? 230万(笑)?

柿内 三田さんが、「買え」って言うから。「買うとモテる」って言うから、モテたいなぁと思って(笑)。テンションはたしかに上がりますね。

三田 もうこんなの見ると。

柿内 今日、会社のスタッフ、みんなテンション上がって。「写真撮らせて!」みたいな。それだけで元取ったみたいな。

――たしかにゴールド持ってる人って、はじめて見たかも。そういえば(笑)。

三田 そういうものですよ。たとえば現金で1000万の札束とか見るとね、もう血がざわつきますよね。血が騒ぐなんていう経験って、そうそうないじゃないですか。

――ないですね……(金を持ち上げる)うわっ、重っ。へぇ。

柿内 血が騒ぐ?

三田 いいもんでしょ?

――じゃあ、若い人も、ぼくも、「自分でお金を稼いだ」っていう実感がないんですかね? 給料がちょっと上がるとか、ボーナスがもらえるとかはありますけど。実際に目の前で何かを売ってお金をもらうという経験がない。だから、「お金ってなんだろう?」とか余計なことを考えるんでしょうか?

三田 でも本来、出版社でもなんでも一緒ですよね。本屋さんが売ってくれて、それが売上になってお金になって返ってくるわけだから。

 やっぱり「お金を稼ぐ」「売上が上がる」っていうのは、何千年と歩んできた人類普遍のこう……やっぱり醍醐味ですよね。それは、恋人ができたときとか、お金が儲かったときとか、戦いに勝ったとかね。そういうことには、なにかしら人を興奮させる力っていうのがやっぱりあるんじゃないかと。

なぜ、日本人は「お金が好き」と言わないのか?

――そんなにもテンションの上がる「お金」なのに、日本人ってお金に対しては否定的ですよね? お金儲けに否定的、というのかな。

三田 いろいろ社会学的な分析はあるんでしょうけどね。やはりこう、為政者、つまり支配する側が、庶民は貧乏な状態のほうがコントロールしやすいっていう時期があったんですよね。

『インベスターZ』にも書いたんですけど、江戸時代なんかはそうでしょ?貧乏な状態にしておいたほうが権力に刃向かいづらい。地方の藩には参勤交代を頻繁にやらせたり、江戸城を直させたりして、お金を吸い上げていったわけですよね。そうやって、ずっと貧乏な状態にしておいたほうが、反乱が起きないだろうっていうことで。

――国民はある意味マインドコントロールされてるというか?

三田 そうですね。あと「商売人は最下層だ」という意識付けをしたわけです。すると、「お金が欲しい」とか「儲けたい」っていうことは人間的に「卑しい」という、そういう思想教育を長いことされてきたんですよね。

 これ、世界的に見ても、だいたいみんなそうですよ。ヨーロッパでもどこでも、「金持ち=人格的に劣る」っていう刷り込みをされてきたわけです。

――そのほうが為政者にとっては都合がよかったんですね。

三田 あんまり「金、金」って言って、世の中が荒れるのを嫌ったわけですね。

――ただ、これまでは経済が右肩上がりだと会社も成長するし、ぼくだって、もし20~30年前に生まれてたら、お金のことは考えなくてもよかったかもしれない。会社に入って、老後も年金で暮らして、会社におんぶにだっこでよかったと思うんです。

 でも、まさにこれからは誰かに任せられるわけでもないですし、だからこそ、『インベスターZ』っていうマンガも出てきたんでしょうし、やっぱりお金のことはちゃんとこれからは自分で考えておかないといけないですよね。

三田 それはもう、はっきりしてますよね。

――「お金儲けが悪い」とか「お金のことなんか考えるな」っていうマインドコントロールにだまされてる場合じゃない。

(続く)