『インベスターZ』をはじめ、『エンゼルバンク』や『砂の栄冠』など「お金」がキーとなるマンガを多く手がけている三田紀房氏。三田氏は「お金」についてどう考えているのか?
彼の哲学の中心にあるのは「お金儲けは楽しい」というシンプルな考えだ。そして「お金を儲けるために」マンガを描いていると公言する。この考え方のウラには実家の商売の影響があったという。早速、彼のお金の考え方について読み解いていこう。
聞き手・編集:竹村俊介(ダイヤモンド社)、写真:宇佐見利明
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9時5時でのんびり暮らしたかった
――三田さんは、もともとサラリーマンになりたかったんですよね?
三田 そうですね。サラリーマンになりたかった。というのも、実家が商売やってますんで、まぁ、両親が働いているのを見るとね。「あんなに働きたくないなぁ」というのがあるわけですよ(笑)。1年中働いてますからね。それでサラリーマンに憧れてた。
――憧れ、ですか?
三田 そうそう、お給料も振り込まれるし、楽ですよね。「9時5時でのんびり暮らしたいなぁ」って思っていたので。
――それで大学を卒業されて、西武百貨店に入られる。何年くらい勤められたんですか?
三田 1年です。
――サラリーマンになりたかったはずなのに、1年ですか?
三田 そうですね。まぁ百貨店も、やってみたら、なんかあんまり面白くないなぁって。サボってばっかりいましたけどね。
――え、でも「入社の動機」とか聞かれたんじゃないですか?
三田 動機はただ単純に、大学の就職課に行ったら「西武行ってこい」って言われて。で、言われるまま行って「内定です」って言われたんで「まぁいいや」って。どこでもよかったんですよ。
――どこでも(笑)。で、会社に入ってからも、そんなに仕事はピンと来なくて。
三田 そうこうしてるうちに実家の親から「家業を継げ」と言われて、会社をあっさり辞めるわけです。
――家業を継ぐわけですね。ご実家に戻られてからは大変でしたか?
三田 そうですね。実家は商店街で衣料品店をやってましたが、やっぱり、個人商店ですからね、資金繰りが苦しいわけです。で、まぁ、はっきり言って、儲からない。
それで、自分で儲ける方法を考えたんですね。たまたま見かけたマンガ雑誌をめくると「新人賞、賞金100万円」って書いてあったんです。で、100万円目当てにマンガを描きはじめたんですね。
「準備」ばかりしていては1円ももらえない
――100万円のためにマンガを描き始めたんですね。三田さんはもともとマンガが好きでもなければ、描いたこともなかったとか。準備なしにいきなり描けるもんですか?
三田 みなさん、考えるのが好きなんですよね。考えたり、準備したりするのが、すごくみなさん大好きで。ぼくは「考える」「準備する」というのは、いっさいしたくないタイプなので。だって、準備では1円ももらえないんですよ。
――「準備では1円ももらえない」。名言ですね(笑)。
三田 準備でお金もらえるのはイチローくらいなもんですよ。
――そうですよね、イチローならトレーニングの様子だけで楽しませられますね。
三田 そうです、そうです。
――準備はしたくない、というのは昔からですか?
三田 そうですね。基本、めんどくさがりだし、基本努力したくないタイプなので。なんて言うか、そうですね、なんとかラクして儲けたいタイプですよね。
――ただ、「ラクして儲けたい」人が「マンガ家」という選択肢は選ばないんじゃないですか?
三田 どうなんですかね。それはそういうふうにまわりが思っているだけで。
みなさん、イメージでものを判断するんですよね。「マンガ家=徹夜」とか「締め切り」とか。だから「徹夜・締め切り=大変・しんどい」みたいな。多くの人は、なんとなく外の情報で、イメージでものを考えると思うんですけど。
ぼくは、イメージは一切持たないんですよ。実際にその現場を見て、感じた状況で判断するので。実際にやってみると、徹夜しなくてもいいし、締め切りに追われる必要もない。
だから、イメージはまったく重要視してないので。
――イメージでとらえない、というのも昔からですか?
三田 かもしれないですね。だから、「なんで西武に入社したのか?」って言われても、会社なんて、どこでも一緒なんですよ、やること一緒だから。何やったって、車売ろうが、家売ろうが、やることは一緒で、だから、別にどこだっていいんですよね。百貨店だろうが、なんか事務所、メーカーだろうが。
で、ぼくはなんでも売る自信がある。
「家を売れ」って言われたら、家売れるし、「車売れ」って言われたら、もう適当なこと言って、お客さんその気にさせて。何でも売るのは一緒だから、マンガ売るのもいいんでね。ようは「お客さんをその気にさせればいい」だけなんで、なんだっていいんですよ、やることは。
――三田さんを知れば知るほど、マンガ家……まあ、ぼくもこれイメージで言ってるんですけど、マンガ家っていうよりは経営者ですよね。
三田 そうですね。だから、儲けるためにマンガ描いてますから。どうやったら、ビジネスとしてうまく行くかっていう。他のマンガ家さんに興味ないんで(笑)。
――「儲けるためにマンガを描いてる」ですか! それを公言してて、他のマンガ家さんになんか言われたこととかないですか?
三田 直接言われて、なんか不愉快な思いをしたこともないし、基本、マンガ家どうし、そんな会わないですしね。