お金の謎を解く冒険。今回はわかっているようでわかっていない「保険」のお話。先生は生命保険会社の社長、岩瀬大輔さんです。ハーバードへの留学経験もある岩瀬さんは「日本人のお金感」に疑問を抱きます。お金、リスク、そして、保険。お金の本質が見えれば、人生が開かれる! 人気投資マンガ「インベスターZ」とのコラボ企画。最高の講師をお迎えして、お金の授業がいま始まります!!
取材・構成:岡本俊浩/写真:加瀬健太郎/協力:柿内芳文(コルク)

話題の投資マンガ「インベスターZ」とは
中学生が株式投資!? 世界一タメになるお金漫画、誕生!創立130年の超進学校・道塾学園にトップ合格した財前孝史。入学式翌日に明かされる学園の秘密、それは各学年成績1位のみが参加する「投資部」が存在することだった。少年よ、学び儲けよ!そして大金を抱け!! 投資部・財前の「株儲け」がいま、幕を開ける。

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<今回の先生>

岩瀬大輔(いわせ・だいすけ)

1976年生まれ。東京大学法学部を卒業後、ボストンコンサルティング グループなどを経て、ハーバード大学経営大学院に留学。06年、副社長としてライフネット生命保険を立ち上げる。2010年には、世界経済フォーラムの「ヤング・グローバル・リーダーズ2010」に選ばれる。13年6月から、ライフネット生命保険代表の取締役社長兼COOを務める。主な著書に『ハーバードMBA留学記 〜資本主義の士官学校にて〜』(日経BP社)、『生命保険のカラクリ』(文春新書)、『入社1年目の教科書』(ダイヤモンド社)などがある。

きみは65歳までに3000万円貯められるか?

 いま、世界のいろいろな国が「お金」の問題を抱えています。

 むろん、日本もその例外ではありません。そのなかで、ぼくが一番懸念を持っているのは「老後資金の不足」です。これは将来、深刻な社会問題になると考えています。

 現在、日本の出生率は1.42(2014年、厚労省)。あと10年もすると、団塊世代(戦後の最大のベビーブーマー)が75歳を超え、後期高齢者になります。

 この段階で、日本の人口ピラミッドは、現在のキノコ型から限りなく逆三角形に近い形になる。つまり、若くなればなるほど、人口が少なくなっていくことを意味します。若い世代には重い負担がのしかかってくるので、年金受給額は減るでしょう。医療負担も増大する可能性も極めて高い。

 だから、「65歳段階で3000万円貯金がないと乗り切れない」とか、そういう話が世の中で盛んにされるようになっている。しかし、こんなに貯金できる方は実際どれだけいるでしょうか。

 状況として相当まずい。だから、現状の公的年金になんらかの形で上乗せしないと、老後を暮らせない人が続出するのではないかと思います。

「誰かがなんとかしてくれる」と思っている日本人

 残念ながら、現在の日本では対応策もほとんどとられていません。

 ただし、海外に目を向ければヒントはあるんです。

 たとえば、近年のイギリスです。

 高齢化の問題は、日本だけが突出しているように思われていますが、実は先進国はどこも同じ問題を抱えているのです。イギリスも老後資金が足りないという問題に直面しています。そこで何をやったかというと、上乗せの年金サービスの加入を「オプトアウト」にしたのです。「拒否」を意味するオプトアウトという仕組みは、「追加の年金に加入しません」と書類にチェックを入れない限りは、自動的に加入させる仕組みです。「入りなさい」と言ってもなかなか入りませんが、この仕組みにしたところ、加入率が大幅に上がったというのです。

 しかし、こういった試みが日本社会で議論されることは、なかなかありませんよね。

「誰かがなんとかしてくれるでしょ」

 このぐらいの認識かもしれません。

「社員は家族です」を掲げた、「日本型企業」が社会のスタンダードだった1990年代なかごろまでは、年金などの社会保障費は会社が面倒を見てくれました。最たるものは「企業年金」ですね。毎月の給料から会社が天引き。積み立てたお金を、退職以降にもらうシステムです。黙っていてももらえますから、安心は安心ですが、これでは年金システムに当事者意識が及ばないのも当然です。

 要するに、老後資金の問題は、多くの人にとって「会社」に象徴される——「大きな父親」が面倒をみてくれるパターナリスティック(父権主義)な問題だったといえます。

 でも、そんな日本型企業のありようは、この20年で変わりました。もはや転職はあたりまえ。会社がなくなることだってある。退職金をもらえる人はそう多くないのです。それ以上に、非正規雇用も増えました。国民年金を払えていないケースも多い。

 もはや老後資金の問題は、自分で考えなければならない問題になりました。


きみは1万円札を破けるか?

 ところが、こういう状況になって久しいにも関わらず、日本のマネーリテラシーは高いとは言えませんよね。

 お金を貯めこむことは必死にやろうとするのに、どこかお金の本質から背を向けるきらいがあるとはいえないでしょうか。

 小説『億男』(マガジンハウス)を書いた川村元気さんと対談をさせてもらったとき、印象深い話をされていました。

 ある晩、川村さんは仲間と呑んでいました。宴席で「お金の実験だ」と言ってやったこととは何か。いきなり1万円札を破いたそうです。そしたら周囲がドン引き――。

 1万円札は高額紙幣ではあります。ただ、その一方では「ただの紙」でもあります。

 破ったのはただの紙。極端な話、それで誰かを傷つけるなんてこともないのに、みんながドン引きした。

 なぜこんな反応が起きたかというと、川村さんは、お金が「仏像」「宗教画」的な側面を持っているからではないかとおっしゃるのです。「お金を破く=偶像破壊」なんだと。

 こんなお話も聞きました。

 日本の親は、子どもによくこう言います。

「お金をさわったから、手を洗いましょうね」

 当然、お金はたくさんの人の手を渡り歩いていますから汚れています。ただ、バイ菌が付着しているのは、階段の手すりやドアノブとか他にも幾らだってあります。それなのに、お金を触ったときにだけ「洗いなさい」と強調するのも、おかしな話ですよね。

 いまお話しした2つのことから見えてくるのは、お金は「神さま」のようでもあり、一方では「汚い」ものでもある。二律背反したものが同居するという構造です。

 

※続きは 『インベスターZ公式副読本 16歳のお金の教科書』(ダイヤモンド社)をごらんください。