原作はまるで知的なパズル
映画も同じでありたかった
──映画と漫画を交互に見ると色んなことがわかる。冒頭のクリスマスのシーンも、原作にはありませんが、映画を見て、戦時中のクリスマスはあんな感じだったんだなとわかりました。
クリスマスツリーの飾りに使う「モール」ってあるでしょ?あれ、今はビニールみたいなのでできててるじゃないですか。戦前は何でできてたかっていうと、経木なんですよ。あの、お弁当箱についているやつですね。そういうのとかも調べて、でも出しようがなくて映画では使ってなかったりするんですけどね(笑)。
──あ、映画のシーンに経木モールがさりげなく入っていたりは……。

拡大画像表示
入っていないんですよ。入っていたら、「あれ、実は経木なんだ」ってなるんだけど……。
他にも、ほら(資料写真を見せてくれながら)、昭和12年のクリスマスの写真ですけど、普通ですよね。昭和40年代の僕らの子ども時代とそんなに変わらないような気がするんですよ。
──そういう細かい描写が映画の中にはふんだんにあるせいで、私自身も、見逃したのでもう一回見に行かなきゃと宝探しみたいに何度も見ているんですけど、これはあえてそうしているのですか。
ひとつにはね、原作がそういう「パズル」のようなものなんですよ。こうのさんが描く作品はすごく知的なパズルみたいになっていて、ほんの隅っこに秘められた物とかが画面の中にあったりするんですね。僕がこうのさんの本を「一生かけて読み解き続けられれば」と言っていたのは、そういうのがふんだんに隠されているからなんですね。
こうの史代さんの『この世界の片隅に』という漫画を映画にするならば、漫画と同じような映画でないといけないと思ったんですよ。
──最後のエンドロールでは、登場人物の一人であるリンさんの絵物語が入ります。あれを見ることで、本編で語られなかったストーリーが多少わかったりするんですが、あそこであの絵物語を入れようというのは当初からの予定ですか?
一応当初からの予定です。というのも、クラウドファンディングで支援してくださった方々の名前を載せないといけなくて、そこで何をしようかなと思った時に思いついたわけですから、そういう意味で言うと去年の夏くらいには決まってましたね。
──エンドロールで流れる支援者の名前を見ていると下の絵物語を見落としてしまって……。
ええ。で、また観に行って(笑)。
>>後編「『この世界の片隅に』監督が語る、映画に仕込んだ“パズル”(下)」に続きます