リーダーシップ演習を実施していると、勘違いマネジメントが横行していることに気づく。部下の育成を阻害しているのは、部下の適性、努力不足と決めつけられがちだが、上司が部下の意欲を粉砕している事例が実に多いのだ。(リブ・コンサルティング人事部長兼組織開発コンサルティング事業部長 山口 博)

顧客の面前で
上司と部下が小競り合い

 先日、事前に日時を約束し、生命保険のセールスパーソンの訪問を受けた。地域の担当者とその上司、ともに30代と思われる女性2人組で、初対面だ。保険会社の営業管理職や営業担当者向けにトレーニングを実施している私としては、どのようなセールス話法を展開してくるのか興味津々で、話に臨むことになった。

やみくもに部下を叱ることが「指導」だと思い込んでいる上司は少なくない。こうした指導力の欠如した上司による人材育成の阻害は、企業にとって大きな問題だ

 まずは、上司が「先日お電話でお約束させていただいて、本日お伺いさせていただきました…」と訪問の背景を説明し、各々の自己紹介に入った。

 そして次に、「地域の担当者として着任しましたので、まずはご挨拶と、生命保険に関してお困りのことやご要望などをお聞かせいただきたい」という訪問の目的を、担当者がとてもスマートに説明してくれた。

 このように冒頭こそ、好印象でスタートしたものの、途中から担当者と上司の間で、お客である私を差し置いて、小競り合いが生じてしまった。事の顛末はこうだ。「生命保険に関してどのような印象を持っているか」と担当者が質問し、私が答える。次に保険種類の一般例を見せられて、「興味のある保険種類があるかどうか」聞かれて、私が答える。ここまでは順調だった。

 しかし、そこから、「今、加入している保険は何でしょうか」と聞かれて、そのまま答えようとすると、上司が「お差し支えなければですが、本人の勉強のために、お聞かせください」とより丁寧な質問に言い換えた。すると、担当者は上司の方を見やり、戸惑いの表情をみせる。

「今加入の保険に関して、お困りのことはありませんか」と担当者が続けて質問、私が特に違和感なく答えようとすると、上司が割って入り、正面の私には満面の笑みを見せながら、すっと横を向いて担当者をにらみつけ、担当者が持っている資料をさっと指さす。担当者はびくっとし、上司に「すいません」とつぶやき、「その前に、今加入の保険は、どのタイプでしょうか」と言い直し、保険種類別に保障のタイプを図示した資料を提示する。どうやら、担当者は、保険のタイプを図示した資料をお客さまに見せる手順を飛ばしてしまったようなのだ。