未来の社会はネット内に建設される

 もっとも、未来社会と言っても、10年くらいでは街の見た目はそれほど変わらないかもしれません。この10年の一番の変化はスマホの向こうにつながった「ネット内」で起こるので、それがどんなに激しくても外見には現れてこないからです。

 「バック・トゥ・ザ・フューチャー」や「A.I.」などの未来社会が描き出すような、車が空やビルの壁面をビュンビュン飛び回るような光景は、当分見られないと思います。それに、東京スカイツリーや、あべのハルカスよりも高い建物はもういらないでしょう。

 それでも、親世代は、大きなビルやタワーが続々と建ち、高速道路が通り、新幹線が走り、大型船が就航し、飛行機もどんどん大型化する時代を生きてきました。だから、目の前に突然立ち上がった大型の建造物や乗り物に興奮し、物や街の外見上の未来に夢を抱くことができた。鉄やコンクリートで作られた未来をです。

 一方、君たちの世代は違います。建設が街で起こるのではなくネット内で起こるから、見えない。可視化されないから夢を託しにくいんです。ネットの向こうの実態は見えないし、いたるところに埋め込まれたチップもセンサーも超小型化して隠されている。さらに先端技術も、ナノテクノロジーやiPS細胞のように微細で見えない領域に向かっています。未来が見えにくくなっちゃったから、夢のあり方も変わっていくはずですね。

 こうして、世界の半分がネット内に建設されるようになると、君たちは自然と、人生の半分をネット内で暮らすようになります。

 仕事が消滅していくのは、AIとロボットが人間のやっていた処理仕事を奪っていくという面もあるのですが、より本質的には、世界の半分がネット内に建設され、人間がその世界で人生の半分を過ごすようになるからなんです。

 これが、親世代と君たちの生きる世界の決定的な違いになります。

 さて、ここで、もう1つ質問です。

 AIが急速に発達していくと、人間の仕事が奪われ、人類の脅威になるということがいま世界中で議論されているのですが、君はどう思いますか?

 ネットワークとつながったAIの高度化は、人間にとって脅威でしょうか?

 僕はこう考えています。

ネットワークが広がれば広がるほど、AIが高度化すればするほど、人間がより人間らしくなるはずだと。人間は、人間じゃなきゃできない仕事をするようになり、人間本来の知恵と力が生きてくるだろう、と。

 学校の先生の仕事が良い例ではないかと思います。

 どんなにネット上に知識が蓄積されても、その前に立つ先生の仕事はなくならない。子どもたちを動機づけたり、ときには叱ったり、背中を押したり、勇気づけたり……そうした人間にしかできない仕事がますます大事になってくる。