【白澤】この世代間の価値観の断裂はやはり、敗戦が大きかったんだと考えざるを得ません。
フランスは第二次世界大戦で負けませんでした。だから、パン屋さんはいまだに、100年前のパンをつくり続けることができます。農業も保護されていて、外国の小麦は入ってきませんから、自立し続けたかたちで100年前のパンをつくり続けることができます。
「敗戦が大きかった」といっても、日本はそれ以降、戦争をせず、どこに負けた経験もないのですから、もう一度「横断的な価値観」を醸成することはできるはずです。しかし、いったん「縦断的な価値観」が途切れて「横断的な価値観」が根づくと、「横断的な価値観」で育った人が親になるわけです。すると自分の子どもには、「横断的な価値観」で生きるように伝えるしかないんですよね。
【久賀谷】「私たちの時代とあなたが生きている時代は違うから、あなたの好きにしなさい」とか、「友達がやっていることを参考にしなさい」というように親が子を育てるわけですね。
【白澤】そうです。親自身、自分の親や祖父母の生き方では生きていませんから、「おれの生き方で生きろ」とか、「うちの親父はこうだったから、お前もこうなんだ」とは言えなくなってきている。だから「縦断的な価値観」をもう一度、根づかせるのは難しいんです。若い人が高齢の人の話を聞かない背景には、このような事情があると私は考えています。
【久賀谷】ちょっと寂しい話ですよね。核家族化とも関わっている問題のように感じます。
【白澤】そうですね。3世代で同じ食卓を囲むということも、今ではなかなか珍しいのではないでしょうか。
「3世代が一緒に食事をする」というのは、日常でありながらなかなか社会的なイベントで、話の仕方やマナーなど、さまざまなことが学べます。しかしその価値観が今は崩れてしまっている。
「長い老後をどう生きていいのかわからない」という悩みも、この問題と大きく関係しているんですよね。自分の祖父母の生き方をしっかり見ていないから、生き方のモデルを失うんです。
「老後のロールモデル」と「あたらしい縦断的な価値観の復活」。この2つが、これからの日本社会のカギになりますね。
(第3回に続く。次回最終回)