年をとるごとに進化する脳の機能とは?
【久賀谷】元気なお年寄りが増えたとはいえ、「老いる」ということ自体についてはまだまだネガティブなイメージがあります。そのために、アンチエイジングに興味を持つ人が多く、みんなが白澤先生のお話を聞きたいと考えているんだと思います。
その中で、白澤先生が「老いる」ということをポジティブにとらえるとしたら、どのようなところがありますか?
【白澤】現実問題として、記憶力は45歳くらいから落ちてきます。認知機能の検査結果を見ても、これは誰にも逆らえないことです。
しかし一方で、50歳になっても60歳になっても、仕事では現役バリバリという人がいます。このような人たちは、脳の中の「経験」を活かすプロセスが発達しているのです。専門的には「結晶性知能」といわれている部分です。
医師をはじめ、世の中には、経験を積めば積むほどパフォーマンスが上がる職業が多くあります。記憶力は衰えても、その分、積んだ経験を活かす機能が発達しているから、全体のパフォーマンスとしては年をとったほうが高くなるということが多くあります。
【久賀谷】「熟練の技」は脳にも宿るんですね。
【白澤】その通りです。瀬戸内寂聴さんは、94歳になった今でも、書き下ろしの小説を書いてるんですよね。これはすごいことです。曾野綾子さんも85歳ですが、バリバリの現役です。
この姿を見て、62歳の林真理子さんは「私もあと30年は書ける。今はおばさんの小説が売れる時代だ!」なんて燃えている。これが理想の姿です。
【久賀谷】なるほど。まさにロールモデルですね。
若者はなぜ、
高齢者の話を聞かなくなったのか?
【久賀谷】一般的に、若い人は、高齢の人の話を聞くことに嫌悪感を持つ人が多いように感じます。しかし白澤先生がおっしゃったように、高齢の方ならではの「熟練の技」が脳にも身についてあるのであれば、その経験や知見を、若い人はもっと積極的に聞いたほうがいいのではないかと思いはじめています。白澤先生はいかがですか?
【白澤】僕は、若い人が高齢の人の話を聞きたがらなくなった背景には、大きな「価値観の隔たり」があると考えています。単なる「ジェネレーションギャップ」ではなく、「高齢の人の話を聞くべきか否か」ということそのものについての、価値観の隔たりです。この乖離があるうちは、若い人に「高齢の人の話を聞きなさい」というのは、なかなか難しいのではないでしょうか。