「なぜ、なぜ」が松下幸之助の口グセだった

パナソニックの創業者、松下幸之助も<br />日々、自問自答を繰り返していた江口 克彦(えぐち・かつひこ)  株式会社江口オフィス代表取締役、経済学博士、李登輝基金會最高顧問。前参議院議員、PHP総合研究所元社長、松下電器産業株式会社元理事、慶應義塾大学法学部政治学科卒、名古屋市生まれ。23年間、ほとんど毎日、松下幸之助と直接語り合 い、その側で過ごす。松下哲学、松下経営の伝承者と言われ、その心を伝える多数の講演、著書には定評がある。「地域主権型道州制」を提唱、内閣官 房道州制ビジョン懇談会座長等を歴任。

江口 「自問力を読ませてもらいました。なかなかいいポイントついていますね。自分が何か困難にあったときに、あの自問力に書かれた『5つの質問』を、毎日毎日繰り返していくってことが大事じゃないかと思うんですね。堀江さんの場合には、ガンになったことがきっかけであの5つのポイントを自問自答したということですけど、あれは厳しい状況であってもなくても、日々われわれが生きてく中で、考えていく必要があると思いました」

堀江 「そうですね。普段からやってないと、病気とかの逆境になったからといって、急には使えないものでしょうからね」

江口 「松下幸之助さんの場合には、『なぜ、なぜ』っていうことを、いつも口グセにしていましたね。その繰り返しのなぜっていうのを自分に問いなさい、と」

堀江 「どういうことですか?」

江口 「たとえば、『なぜ自分はここにいるんだろう』『なぜ自分はこういう仕事をしているんだろう』ということですね。幸之助さんはどうして『なぜ』にこだわっていたのか。その原点は、生と死を考えるっていうことが出発点だったと思います。というのは、あの人は両親2人と8人兄弟。その末っ子なんですね。それが、自分を除く残り9人が幸之助さんが26歳までに全員、結核で亡くなっていくんですよ」

堀江 「そうでしたね。本当にお辛いですよね」

江口 「そうすると、1年で2回もお葬式を出すなんてことを2回もやってるわけです。そういう両親、兄弟の死というものを10代の多感なときに経験しているんです。だから生とは何か、死とは何か、生きるとは何だろうか、人間とは何だろうかっていうようなことを、日々、自問し続けたと思うんですよね」

堀江 「そうでしょうね」

江口 「それが、後の『なぜ、なぜ』という幸之助さんの口グセにつながったのでしょう。堀江さんの言葉で言う自問力が幸之助さんにも備わっていたんじゃないかなと思います。それが結局、松下幸之助という人を希代の経営者、成功者にしたのではないでしょうか。今回の堀江さんの自問力という本を読みながら、そういうことを思い返して、いい本だなっていうふうに私は思いましたね」

堀江 「どうもありがとうございます。でも、私の自問力と松下幸之助さんの自問力では、全然レベルが違うと思いますが…。でも、自問自答って、誰でも日々、無意識にはやっているんですよね。本人が気づいていないだけで」

江口 「そうかもしれませんね」

堀江 「ただ、なぜと自分に問うといっても、それを1回や2回やったくらいでは、ほとんど何も変わらないと思います。私がガンになったときは、もう繰り返し繰り返し、四六時中考えていました。それを繰り返す中で、生きる希望が湧いてきたのです」

江口 「これは不謹慎な言い方になるかもしれませが、私は堀江さんがガンになったのは、ある意味、非常にラッキーなことだったと思いますよ」

堀江 「はい。私もそう思っています」

江口 「結局、ガンになったっていうことで、自分というものを考える、自分に問い掛けるっていう、そういうものを発見されたっていうことですよね。それは結局、ガンというものを前向きに捉えることによって、ガンを治すという一つの方向になっていったと思うし、今の堀江さんっていうものを作りあげたっていうことにもなろうかと思います」