確信のある人のほうが、正しいことを言う人よりも、皆の心を動かす

佐々木圭一(ささき・けいいち)コピーライター/作詞家/上智大学非常勤講師 新入社員時代、もともと伝えることが得意でなかったにもかかわらず、コピーライターとして配属され苦しむ。連日、書いても書いても全てボツ。当時つけられたあだ名は「最もエコでないコピーライター」。ストレスにより1日3個プリンを食べる日々をすごし、激太りする。それでもプリンをやめられなかったのは、世の中で唯一、じぶんに甘かったのはプリンだったから。あるとき、伝え方には技術があることを発見。そこから伝え方だけでなく、人生ががらりと変わる。本書はその体験と、発見した技術を赤裸裸に綴ったもの。本業の広告制作では、カンヌ国際広告祭でゴールド賞を含む3年連続受賞、など国内外55のアワードに入選入賞。企業講演、学校のボランティア講演、あわせて年間70回以上。郷ひろみ・Chemistryなどの作詞家として、アルバム・オリコン1位を2度獲得。「世界一受けたい授業」「助けて!きわめびと」などテレビ出演多数。株式会社ウゴカス代表取締役。伝えベタだった自分を変えた「伝え方の技術」をシェアすることで、「日本人のコミュニケーション能力のベースアップ」を志す。
佐々木圭一公式サイト: www.ugokasu.co.jp www.facebook.com/k1countryfree
Twitter: @keiichisasaki

佐々木 トップリーダーって、そういう資質が必要だったりしますよね。間違えているかは置いといて、まずは決めるからみんなついてこい、みたいな。

中野 さすが佐々木さんだなと、今思いました。…ある非常に興味深い実験をご紹介しますね。AさんからDさん、4人の被験者を用意して、皆に数学の問題を出します。そして1、2、3のどれが答えか議論してもらう。そのうちAさんは最初に「答えは1じゃないか」と発言し、BさんとCさんも同調します。その中Dさんはいつも最後のほうに、「いや、みんなの考えは一見正しいようだけれども、論理的に考えると3が正しいよ」というんですね。そして確かに3が正しい。このようなトライアルを何度か繰り返すのですが、Aさんはたいてい一番早く答えを言うけれどあまり正しくなくて、Dさんはいつも遅いんだけれど正しいということが分かっていく。で、そのトライアルが終わった後、その4人でリーダーを選出してもらうのですが、誰が選ばれるかというと、Aさん。

佐々木 エーーーーーー!

中野 ダジャレじゃないですよね(笑)。

佐々木 驚きとダジャレ、両方です(笑)。Dさんが選ばれそうなのに…だって、正しく判断できる人こそリーダーに適任だと思いますよね。

中野 でも、まさにこの実験のようなことが、アメリカ大統領選で起きたわけです。みんなトランプは落選すると思っていたでしょう?

佐々木 思っていました。絶対にヒラリーだと思っていました。

中野 絶対ヒラリー・クリントンが選ばれると、皆思うんですよ。でも、私はドナルド・トランプが選ばれるだろうと思っていました。結果的にそのとおりになって、実験も捨てたもんじゃないなって思いました(笑)。確信のある人のほうが、正しいことを言う人よりも、皆の心を動かすという性質があるんです。これがサイコパスが使う特性です、非常にクリアな。

佐々木 意識してやっているということですか?

中野 そうですね。最近ではこの現象のことを「ポストトゥルース」(脱真実)と言うようです。本当のことなんか、別に知りたくないと。

佐々木 それよりは、確信させてくれるほうがいいと。

中野 そうです。例えば、キャバクラでバイトしている女の子に、「あなたはこうですね、ああですね」と正確に特徴を分析されるよりも、「いつも素敵ですね」と言われたほうが、全然嬉しいですよね。

佐々木 確かにそうですね。

中野 みんなそうなんです。そう言ってくれる人を待っていて、そう言ってくれる人を支持する。政治をよくしようとしてくれる人なんか求められていなくて、気持ちよくさせてくれる人が支持されるんです。大衆がそれを求めるから、SNSなどでこういうサイコパスが注目されるようになり、社会的な影響力も持つようになり、政治でも力を持ってしまう。こういう現象を読み解きたいと思って、この本を書いたんです。