教育次第で、サイコパスは「勝ち組サイコパス」になれる
佐々木 本の前半では、殺人者などサイコパスの極端な例が紹介されていますが、後半ではサイコパスの勝者が紹介されているのが印象的でした。例えば、スティーブ・ジョブズもきっとサイコパスの部分があったのではないかと。すごく判断力もあるし、決断力もあるけれど、過ぎ去った人にはものすごく冷たいという典型的なタイプだ…と書かれていて、なるほどと思いました。
中野 勝ち組サイコパスは、完全に社会を壊すところまではいかないけれど、みんなから広く薄く搾取して、自分は巧みに「いいとこどり」をしていい位置につける。ただ、そうやってのうのうと生き延びている人たちにも社会的な役割があるよね、という考察をしています。こんなに面倒くさい存在だったら、どうして排除されないのかと思うけれど、排除されないだけの存在意義があるんじゃないかと考えてみたりしています。
佐々木 アメリカでは、人口の4%がサイコパスだと書かれていましたね。アメリカ大陸をどんどん開拓して、新しいものを見つけていくのはサイコパスの特徴だから、比率が多いのだと。
中野 そういう人のほうが、より生き延びやすい環境であり、そういう圧力があったのだと考えたほうが良さそうですね。日本は約1%で、東アジアの中でも少ない傾向にあるのですが、おそらく集団で生き延びなければならないという圧力と、長期的に人間関係が続くという流動性の低さが原因だと思います。流動性が低いと、サイコパスは「過去にこういうことをした人だ」と悪い過去がトレースされやすいんですね。今は改心したかもしれないけれど、あそこには嫁はやれないなどと村八分にあい、遺伝子を残せない。すると、そういう個体の数は徐々に減っていきます。
佐々木 なるほど。ということは、サイコパスは遺伝するんですか?
中野 遺伝の可能性が高いと言われています、残念ながら。負け組サイコパスの事例ですが、犯罪を何度も繰り返した人が、監獄の中で「お前によく似たやつに出会ったよ」と言われて、それは実は生き別れた父親だった…という逸話があるのです。つまり、父親も同じような犯罪をして、別の監獄に入っていたという。
反社会性については、MAOAというモノアミン酸化酵素の活性である程度規定されると分かっているのですが、これは遺伝します。あとは、前述した「相手を思いやる」部分である眼窩前頭資質の機能についても遺伝します。
佐々木 なるほど…。
中野 ただ、遺伝の結果、犯罪に結びつく負け組サイコパスになるか、社会の変革に寄与するかもしれない勝ち組サイコパスになるのかは、これは教育の問題です。
佐々木 教育はとても重要なのですね!
中野 伝え方も重要です(笑)。若い時に知っておけば、大化けする可能性がある。ジョブズになるかもしれないし、織田信長になるかもしれない。社会進化のために有用なサイコパシーとして機能する可能性は大いにあるんです。