「保護なめんな」ジャンパー事件を猛省も
小田原市の具体的な取り組みはこれから
本年2017年1月、小田原市の生活保護ケースワーカーたちが10年にわたって「保護なめんな」などとプリントしたジャンパーを着用していた問題が報道され、賛否両論、大きな反響を呼び起こした。
小田原市は、通り一遍の謝罪や釈明に終わらず、翌月となる2月から「生活保護行政のあり方検討会(以下、小田原市生活保護検討会)」を開催した。有識者として出席した5名の顔ぶれは、研究者2名、元ケースワーカー2名(団体職員・弁護士)に加え、生活保護で暮らした経験を持つ援助職1名である。また小田原市からは、企画・人事・福祉部門から6名の部長・課長が出席した。
3月25日、最終回の第4回となる小田原市生活保護検討会が開催され、検討し尽くせなかった問題点に関する今後の短期的・中期的・長期的フォローアップ、さらに最終報告書案の内容が、濃密に議論された。
年度明け早々に公開される見通しの報告書案には、「なぜ地方自治体は存在するのか。それは人びとが生きるため、暮らすためのニーズを満たし、現在の、そして未来への不安から人を解き放つためである」「なぜ行政は市民と向き合うのか。(略)税を払う顧客だからでもなく、地域に生きる人間と人間のほころびをなくし、喜びと悲しみを分かち合うプラットフォームを作るためである」「市民と行政が手を携え合いながら、人間の幸福を追い求めるあらたな第一歩がここにはじまる」「未来を変えるのは未来の人間ではない。いまを生きる者たちの意志である」といった文言がある。報告書案のあらゆる箇所から、「霞が関文学」とは対照的な文学性が香り立っている。
小田原市は、「保護なめんな」ジャンパーの問題を、生活保護ケースワーカーたちの問題、生活保護担当部署の問題、あるいは生活保護で暮らす人々の問題として終わらせず、市役所全体の問題、さらに小田原市の福祉と社会保障の根底の問題として位置づけ、真摯に検討した。この姿勢と結果は、掛け値なく素晴らしい。
小田原市生活保護検討会最終回の終了直前、出席していた市の管理職たちは「『(報告書の)人々が生きて暮らし、将来への不安を振り払うため』に地方自治体があることを心に残して、原点に立ち返って仕事を見直していきたい」「(小田原市の)生活保護現場の孤立感は、全庁で起こり得る。横の連携を考えていきたい」「この事件で最も被害を受けたのは、本当に弱い立場(生活保護)の人たちだった。議論の中で繰り返された『受給が恥ずかしい社会がおかしい』という指摘に対し、自分たちも心を新たにしていかなくては」と述べた(以下、検討会での発言は筆者のメモによる)。