何事も「中途半端」に終わらせてはならない
彼の誘いに乗った私は、国立マラヤ大学の留学を終えると日本に帰国。日本メーカーで技術研修を受けたうえで、シンガポールへ移住する準備を進めていました。ところが、当時は気づきませんでしたが、このころからすでに異変の予兆がありました。
日本メーカー本社から、シンガポールの工場に送り込んだ機械がどうしてもうまく動かないという連絡が入ったのです。そして、私は、まだ正式に社員として採用されていたわけではありませんが、入社するという前提で、その機械を製造した和歌山の企業と調整をしてほしいと依頼されたのです。
そこで、私はさっそく和歌山まで飛んで、機械をつくった会社の社長とともに、シンガポールから続々と届く「あれが不具合」「これが不具合」というクレームを受けながら、あれこれと調整を続けました。しかし、それでも機械はまったく動いてくれませんでした。
弱り果てていると、日本メーカーの社長に呼び出されました。
そして、こんな言葉を投げかけられたのです。
「小西君、機械が動かないのでは、君も進退きわまったな」
つまり、機械が動かなければ、合弁会社は倒産させるしかない。私の就職先そのものがなくなる、というわけです。機械が動かないのは、私の責任ではありません。にもかかわらず、いきなり前途に暗雲が立ち込めたのですから、唖然(あぜん)としました。歯を食いしばって、黙っているほかありませんでした。
すると、社長はこう問いかけました。
「どうする?」
若かった私も、ピンと来ました。社長は、「シンガポールには行かない」という返事を求めている、と。しかし、私は仕事を中途半端に終わらせることに抵抗があった。それに、なんとしてもシンガポールに渡りたかった。だから、こう応えました。
「それでも行きたいと思います」