古から今も変わらず慣習、習慣を受け継ぎながら、流々とした時を刻む町京都祇園。時代を超えて私たち日本人の心を惹きつける「粋の文化」を祇園に入り浸る著者が「かっこいいおとな」になるために紡ぐエッセイ。第5回は、あらゆる分野の原点となっている花街についてお届けいたします。(作家/徳力龍之介)
日本の原風景がいまでも残る花街
ここ数年のことだろうか花街と言われている祇園町にも海外からの観光客が溢れるようになった。ほんの数年前までは昼間に行き交うのは出入りの業者か関係者しか居なかったものだ。夕暮れが近ずくと観光客の足は遠のき、提灯の明かりが灯ると地味ながらも昔ながらの賑わいを感じさせてくれる。
舞妓さんが履く「おこぼ」と言われる背の高い草履のような履物の独特の音が響き、三味線の音がどこからか聞こえて風情というか古き良き日本の姿を感じさせてくれるのが何よりの楽しみであり安堵を感じる場所であった。
お茶屋さんから溢れる賑やかな会話の様子や、宴席の賑わいが街の風景になじむ不思議な感覚につくづくこの街の良きところを楽しませてくれる。歴史的保存地区ということもあって、あらゆるガイドブックに紹介され日本家屋が連なる原風景的な魅力が海外からの観光客を含め珍しいところになっているのだろう。
私は幼い頃からの景色で見慣れた日常であるのだが、同じ京都に住んでいても花街に出入りのない人には縁のないところなのだろう。おそらく一昔前にはどこにでもあった風情や風景がほぼそのままに残っているということは奇跡的なのかもしれないと思うようになった。時代劇や映画の世界ではちょっと怪しい雰囲気に扱われたり、特別な場所になってたりもする。