全米で話題沸騰中の21の睡眠メソッドを集約した、『SLEEP 最高の脳と身体をつくる睡眠の技術』。本連載では同書の中心的なメソッドを紹介していきます。食事、ベッド、寝る姿勢、パジャマ――。どんな疲れも超回復し、脳のパフォーマンスを最大化する「睡眠の技術」に注目です!

マッサージのメリットは驚くほど多い

『インターナショナル・ジャーナル・オブ・ニューロサイエンス』誌に、慢性的な痛みに関する研究報告が載っていた。慢性的な痛みを抱える被験者がマッサージ治療を受けたところ、痛みが緩和されたほか、睡眠の質が上がってセロトニンの分泌量が増加したという。

マッサージの気持ちよさは誰もが知っている。しかし、睡眠の質を高める効果を過小評価している人は多い。マッサージは、交感神経系(闘争・逃走反応をつかさどる)の高ぶりを鎮め、副交感神経系(休息や消化をつかさどる)の働きを活発にする秘密兵器だと言える。

リラックス効果が実証されているセロトニンやオキシトシンが増え、コルチゾールが減るのだから、マッサージが夢の世界へ滑り込みやすくしてくれても何の不思議もない。マッサージはストレスを解消してくれるとわかっていても、ほかにもメリットがあると知って意外に思う人は多い。

マッサージには次のようなメリットがあると言われている。といっても、これらはほんの一部にすぎない。

・血圧の正常化
・体内で炎症を煽る炎症性サイトカインの減少
・痛みの緩和
・可動性の向上
・不安や気分の落ち込みの改善
・片頭痛を含む頭痛の軽減
・消化機能や排泄機能の向上
・ストレスホルモンの減少
・免疫機能の改善

マッサージを受けている人の脳波を測定した実験では、デルタ波が実際に増えていたという。デルタ波は完全に身体が休んでいる状態で、回復にあてられる深い睡眠に関係している。これもまた、マッサージを軽んじてはいけない理由の一つだ。マッサージは、私たちに必要不可欠なものとしてとらえるべきなのだ。

一人でできる快眠マッサージ「腸つぶし」とは

夜ベッドに入る直前は、マッサージ(自分でするものも含む)をするタイミングとして最適だ。それにより、交感神経系の活動を鎮めることになる。

私はポッドキャスト番組を提供しているが、なかでも理学療法士で一流アスリートのコーチも務めるケリー・スターレットが登場した回はとくに人気が高かった。彼は、ぐっすり眠れるようにもなる特別なマッサージ法を見つけたと言ってこう続けた。

「いまの私たちが抱えるいちばんの問題は、体内の活動を鎮めるのが苦手だということです。交感神経系と副交感神経系が絶えず主導権を争っていて、最終的には交感神経系が60で勝ち越す。動きだすためにエネルギーをチャージしたいときは、コーヒーを飲んだり、栄養ドリンクを身体に流し込んだりすればいい。でも、60で活動している交感神経系を0に下げろと言われたら、どうすればいいかわからない。そういうときは、非常に複雑で、非常に高度な『腸つぶし』が効果的です」

「複雑」というのは半分冗談で、その作用は複雑なものの、やり方は至って簡単だという。「腸つぶし」とは、胃などの臓器を囲む腹壁を目的をもってマッサージするという意味で、これによって迷走神経が刺激される。迷走神経は心臓や肺などの臓器と脳を直接つなぐ役割を担い、UCLAの研究者によって、その神経線維の約90パーセントが腸から脳へ情報を運ぶ(その逆はない)ことが明らかにされている。つまり、お腹のなかで何かを起こせば、それに即した指令を脳や神経系に送ることができるのだ。

腸つぶしを行うにはまず、少々弾力のあるボールを一つ用意する。スターレットは、ディスカウントストアなどでワゴンに入って売られている安いプラスチック製のボールで十分だと言っている。大きさは、サッカーボールやキックベースボール程度が望ましい。

いずれにせよ、押して少しへこむ余裕があることが大切なので、空気を入れすぎないことがポイントだ。ボールが用意できたら床にうつぶせになり、お腹の下にボールを入れる。スターレットは次のように説明する。「5~10分かけて、腹部の筋肉組織を引き剥がします。ボールの上でお腹を前後に動かし、不快に感じる場所で動きを止めて、筋肉の収縮と弛緩を繰り返します。お腹からボールに息を吹き込むようなイメージです。このマッサージは安全ですし、副交感神経系のスイッチを入れる効果があります」。

スターレットは、世界各地で大勢のアスリートや病気に苦しむ人をサポートしてきた結果、交感神経を鎮めるにはこの方法がもっとも効率的だとわかったという。

私たちの身体は、絶えず緊張を強いられ、ストレスにさらされている。体内ではあちこちで炎症が起きている。そんな身体を元の状態に戻し、心をほぐし、睡眠を取り戻してくれるのが、昔から効果が実証されているマッサージなのだ。