東京都庁20時を筆頭に、オフィスの照明を一斉消灯する取り組みが、まるでブームのように広がっている。しかしこれは、枠組みマネジメントの典型で、取り返しのつかないトンデモ状態を生み出してしまうのだ。(山口 博)
CFOの承認がないから給料は払えない!
ルールに盲従する、ある企業の悲劇
先日、オフィスの一斉消灯のような一律規制に対して、「この時間に退社しろと強制させられて嬉しいか?」「自律裁量が個人のパフォーマンスを伸ばす」とこちらのコラムに書かせていただいたところ、「経団連の回し者か」「健康を害してもいいというのか!」「一斉退社を決めてもらえないと、帰れないだろう!」…という意味のパッシングを多数頂戴した。
先のコラムで、私は長時間労働を是としているのではなく、すべてを一律にルール化することに対して異を唱えたつもりだ。これは退社時間の例だが、わが国のビジネスシーンにおいては、この種の「枠組みマネジメント」が実に多い。そして、その枠組みマネジメントを、経営者だけでなく、ビジネスパーソンも受け入れてしまっていたり、望んでしまったりしているという現状があるのだと痛感した。しかし実は、この状態がトンデモな事態を勃発させ、わが国ビジネスを停滞させるのだ。
枠組みマネジメントによる弊害は、実は、既に他国が直面している。私が体験した、他国における最も悲惨な枠組みマネジメントのトンデモ事例は、給与支払遅延にかかわる問題だった。
私が米国に本社を持つ企業・V社の日本法人の人事部長を務めていた時代のことだ。V社日本法人では、毎月の給与支払いにおいて、次の6段階のプロセスを、支払日の10営業日前から進めていた。
(1)日本の人事部による支払金額の計算、前月との差違がある社員と項目についてはその差額と理由の明確化
(2)アジアパシフィックの人事部マネジャーにおける確認と承認
(3)アジアパシフィックの経理マネジャーにおける確認と承認
(4)アジアパシフィックのCFOの承認
(5)アジアパシフィックの経理マネジャーから銀行へ振込データの送付
(6)銀行からの社員の口座へ支払い
トンデモな事態は、私が着任して3回目の給与支払いプロセスの進捗時に起きた。アジアパシフィックCFOの承認期限日の夕方、アジアパシフィックの経理担当からのメール内容に、私は目を疑った。「CFOの承認が完了していないので、今月は給与の支払いをできません」とだけ書かれていたのだ。