様々な技術の進化により、車の安全性能は現在も進化を続けているが、それでもなくならないのがアクセルとブレーキの踏み間違いによる事故。しかし、実はこの誤操作事故を防ぐための技術は、すでに25年も前に開発されている。本来であれば“世紀の大発明”と呼ばれてもおかしくないナルセペダルだが、何故浸透しないのか。九州大学名誉教授で「事故なき社会株式会社」取締役の松永勝也氏に聞いた。(清談社 岡田光雄)
踏み間違い事故が多発する
オートマ車の構造の問題点とは
このところ、アクセルとブレーキの踏み間違いによる事故のニュースが多発している。
5月2日、大分市で病院の1階ロビーに車が突っ込む事故が発生。16日には群馬県太田市でコンビニに、21日には京都市で民家に車が突っ込む事故が起きている。交通事故総合分析センター(東京)によると、同様の事故は2005年~15年までに年間5000~7000件発生している。
そもそも何故、踏み間違い事故が起こるのか。その要因のひとつと言われるのが、マニュアル(MT)車に乗る人口が減少したことだ。日本自動車販売協会連合会(『新車登録台数年報』2016年)によると、15年に販売された新車239万1404台のうち、MT車はたったの3万9331台(1.6%)。市場の人気は、運転が簡単なオートマ(AT) 車が圧倒的だ。
「一昔前に流行ったMT車の場合、アクセルとブレーキの他にクラッチとの連携操作が必要だったので、そのことが事故防止に貢献し、踏み間違いによる事故は問題になるほど発生していませんでした」(松永氏)
AT車のアクセルとブレーキの構造には、「運動生理学」上から見て問題があるという。聞き馴れない言葉だが、これは人間が運動をする際に生じる身体の機能や構造の変化を研究する学問のこと。
「人間は驚いた時に逃げるための準備反射、すなわち“踏ん張る”動作が発生するので、ペダルに足が乗っていれば、それを踏み込む状況が発生します。ブレーキペダルに比べてアクセルペダルを踏む回数ははるかに多く、同じ動作を繰り返すに従って、アクセル操作の方がより反射的に素早くできるようになってしまいます。このメカニズムによって、事故に遭いそうな場面で、ブレーキでなくアクセルを踏んでしまう場合があるのです。これが、ペダルの踏み間違いの発生メカニズムの1つといえます」(松永氏)
自動車を運転する上では、アクセルペダルを踏み続けざるをえず、言い換えれば、ペダルを踏み間違えるための練習を普段からしているようなもので、解決策はないように思える。しかし、松永氏は、ナルセペダルであれば、踏み間違い事故を防止できる可能性が高いという。