しかし、ミサトさんが何よりも憂慮するのは、生活保護で暮らす人々の中でも、さらに弱い側に立つ人々だ。

「生活保護受給者の70%以上が、高齢者、障害者、傷病者です。生活保護だけではなく、そういう人々に対する偏見にもつながりかねない問題だと思っています」(ミサトさん)

福島生健会チラシ。生活保護で暮らす福島市の人々を不安に陥れるチラシに対抗し、「福島県生活と健康を守る会」が作成・配布したもの。生活保護とその利用に関する事実がまとめられている
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 なお、このチラシが投函されていることを知った「福島県生活と健康を守る会」は、生活保護制度とその利用に関する説明チラシを作成し、2017年2月と4月の2回にわたり、公営住宅を中心に、合計3万8000枚を地域に配布した。同会には、福島市、いわき市、会津若松市、白河市から、チラシを見た住民からの生活相談が寄せられたという。

 福島市内の公営住宅に配布された中傷チラシは、地域に対する情報提供チラシの配布というアクションを呼び起こし、結果として住民の社会保障へのニーズを掘り起こした。この点だけを見れば、「雨降って地固まる」かもしれない。

 しかし、チラシの内容と配布するという行為を、どう考えればよいのだろうか。間違っても“結果オーライ”で済ませるわけにはいかないだろう。

法的対処の手段はなし
粘り強い教育を続けるだけ

 生活保護問題に長く関わっている弁護士の小久保哲郎さんは、「いやらしい、気分の悪くなるビラですね」と鋭敏に反応したが、法的手段については「生活保護利用者に対する嫌がらせ行為であるとは言えると思います。不法行為に基づく慰謝料請求は、できると言えばできるでしょう。しかし、相手の特定と当事者の訴える意思が前提なので、実務的には難しいでしょう」という。

 内容については、特定の個人の名誉を棄損したり侮辱したりするものではないため、刑法上の名誉棄損罪や侮辱罪は成立せず、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」の解消を目的とするヘイトスピーチ解消法の対象にもならないそうだ。