世界最大の農薬メーカーでありながら、日本では農業関係者以外に知られていないシンジェンタ。世界規模で進行する化学業界の合従連衡の流れの中で、同社は米国の有力メーカーと組まず、あえて中国の国営化学会社の傘下に入る道を選択した。農業ビジネスの実情に詳しいシンジェンタ日本法人の篠原聡明社長に、中国企業による買収を受け入れた理由や、日本の農業が目指すべき姿、日本の食糧安全保障についての問題意識などを聞いた。 (聞き手/「週刊ダイヤモンド」編集部 池冨 仁)
――現在、広義の意味での化学業界において、世界規模で大企業同士の合従連衡が起きています。例えば、ドイツの医薬・農薬大手のバイエルは、遺伝子組み換え種子の最大手である米モンサントを約6兆8000億円で買収しました。また、この8月中には、米化学大手のダウとデュポンが史上最大の経営統合に踏み切ります。
過去数年、世界の化学業界で起きている大きなトレンド(趨勢)の背景には、(1)事業ドメインの選択と集中を進める必然性、(2)グローバリゼーションへの対応、(3)それに基づいたスケールメリットの拡大があった、と私は考えています。
例えば、スイスに本社を置くシンジェンタは、2000年にスイスのノバルティスと英国のアストラゼネカが両社の農業ビジネス部門を経営統合して、世界で初めてこの分野の専門メーカーとして誕生しました。狭義の意味での化学業界、すなわち農薬に関係するビジネスは、巨大化した“化学コングロマリット”の一部にすぎませんでした。
なぜ、切り出す必要があったのか――。医薬の分野でも同じですが、とりわけ農薬の場合は、年々、地球環境への影響、人間に対する安全性、薬剤の効能などで規制当局の要求水準が上がっているからで、過去の許認可は通用しなくなっています。