アバターの世界に生きる女子高生

 かつて、インターネット以前の世界には「ニフティサーブ」や「ファーストクラス」といったパソコン通信の活性がありましたが、現状ではこのエリアのソーシャルメディアといえるものは存在しません。

 無理矢理に近いものを探すならば、ネットワークゲームが思い当たります。ネットワークゲームの活性も無視できないほどに大きくなってきていて、その強力な魅力に引き込まれ依存症となるケース(「ネトゲ廃人」と呼ばれる)も多数報告されています。ここで、ひとりの女子高生のエピソードをご紹介しようと思います。

 成績も容姿もごく普通、学校でも目立たないその女子高生は、将来に明確な希望も目標もなく変化のない退屈な日常を送っています。

 しかし、ネットワークゲームの世界で彼女は一騎当千の戦士として華やかに活躍しています。そこでは十数名のパーティー(一緒に戦う仲間のグループ)から慕われ、仲間が苦境に立たされているときは颯爽と登場して敵を追い払い、仲間の命を助けます。

 その戦士が「半日落ちる」と言い残して戦場から立ち去りました。仲間はその間みんなで力を合わせて堪えようと励まし合い、戦士の帰還を待ちます。

 その間、彼女はケータイの出会い系サイトで「練馬区、サポ2万円希望」と書き込み、売春します。そこで得た資金をゲームの利用料としてネットワークゲーム会社に振り込み、約束の時間に仲間のもとに駆けつけます。

 彼女にとって現実生活はただ単調で息苦しく、そこにいる自分はどうなってもよい存在です。彼女にとっては、ネットワークゲームの世界のほうが輝ける場所であり、本当の自分が住む世界なのです。

 この話を聞いて、2009年に公開されたジェームズ・キャメロン監督による大ヒット映画『アバター』を連想された読者も多いのではないでしょうか。アバターに乗り移り、スパイ活動という名目でパンドラの戦士として活動するようになった主人公は、原住民から勇者として慕われるようになります。

 さまざまな冒険を経験するなかでパンドラの女性と恋に落ちます。しかしアバターから離れた実際の自分には、刺激もなく注目されることもないさえない日々が続いています。主人公はとうとう逆転を試みます。架空の身体であるアバターでの生活と現実の生活とを入れ替えて、アバターの世界を本当の世界にしてしまおうとするのです。