10月5日に逝去したアップル社CEO、スティーブ・ジョブズ。「音楽業界に革命をもたらした人物」「人々のライフスタイルを変えた現代のアイコン」「アップルを時価総額世界1位に押し上げた立役者」など、ジョブズを称える言葉はあまたある。
だが、古くからのマッキントッシュ・ユーザーである武田隆氏に言わせれば、ジョブズの成し遂げた功績はそれだけではないという。では、その功績とは何か? ヒントは「アップルファンどうしの連帯感」。そう、スティーブ・ジョブズはソーシャルメディアの企業における利用、すなわち企業コミュニティの先駆者としても、その類いまれな才能を発揮した人物だったのだ。

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スティーブ・ジョブズは企業コミュニティの先駆者

武田隆(たけだ・たかし)エイベック研究所 代表取締役。日本大学芸術学部にてメディア美学者 武邑光裕に師事。「日本の伝統芸術とマルチメディアの融合」を学ぶ。1996年、学生ベンチャーとして起業。企業のウェブサイト構築のコンサルテーションを足掛かりに事業を拡大し、多数の受賞を得るも、企業と顧客の距離が縮まらないインターネットサービスの限界に悩む。クライアント企業各社との数年に及ぶ共同実験を経て、ソーシャルメディアをマーケティングに活用する「企業コミュニティ」の理論と手法を独自開発。その理論の中核には「心あたたまる関係と経済効果の融合」がある。システムの完成に合わせ、2000年同研究所を株式会社化。その後、自らの足で2000社の企業を回る。花王、カゴメ、ベネッセなど業界トップの会社から評価を得て、累計300社にシステムを導入。当ドメインでは日本最大。コミュニティには60万人を超える消費者が集まる。1974年1月生まれ。海浜幕張出身。

 去る10月5日、アップルの創業者であるスティーブ・ジョブズの訃報が世界を駆けめぐりました。

 若い世代にとっては、ジョブズは「iPhoneを発明した人」なのかもしれませんが、あるアメリカのメディアが「エジソン以来の発明家」と彼を評したように、マッキントッシュを通じてコンピュータに触れた私にとっては、ジョブズは私の触れたコンピュータ、インターネット、マルチメディアすべての発明者に近いのです。

 さらに言えば、実は、スティーブ・ジョブズはソーシャルメディアの企業における利用、すなわち企業コミュニティの先駆者としても評価することができます。

 私がマッキントッシュを買った当時、なんだかんだで一式100万円近くかかりました。そんな高い機材を持っているマッキントッシュ・ユーザーがまわりにたくさんいるわけもなく、使い方がわからないときや新製品の情報交換などはマック関連の雑誌、書籍などに頼っていました。

 しかしながら、マッキントッシュの一般的な情報については、既存のメディアで見つけることができても、芸大出身のクリエーターの自分がぶつかる課題について、ずばり答えてくれている内容を見つけることは難しいものでした。

 しかし、こんな私の悩みをよろず解決してくれる場所がありました。それはパソコン通信です。

 当時はニフティサーブ全盛期で、マッキントッシュ関連の掲示板は花盛りでした。自分と同じような仕事をしている仲間や、次第に少数派になっていくマッキントッシュ・ユーザーにとって、こうしたコミュニティはまさにマッキントッシュを通じて価値観を共有する者が集まる場だったのです。

「マッキントッシュが価値観共有のハブになっている」と言っても、ピンとこないかもしれません。そのためには、マッキントッシュの歴史をひも解く必要があるでしょう。