「ソーシャルメディアは人と人とのつながりを促す一方で、個人の孤独感を助長しかねない側面も孕んでいる」――。前回の連載では、ソーシャルメディアの爆発的成長の陰に隠れてあまり語られることのない、しかしネット社会を生きる私たちが必ず立ち至らざるをえない問題を指摘した。
自分というものを理解してくれない社会と距離を置き、より深くつながれる仲間たちとネット上のコミュニティを築く。だがその行為が、ますます社会との断絶を強めるというパラドックス。今回はその点について掘り下げて考えてみたい。

【第1回】「ソーシャルメディアは死んだ」と言われる日は近い…?」から読む
【第2回】「ソーシャルメディアとサクラの微妙な関係」から読む

【第3回】「「2ちゃんねる」は永遠に不滅?!」から読む
【第4回】「ソーシャルメディアが浮き彫りにする個人の孤独」から読む

「価値観×関係構築」のエリアに生み出される
修学旅行の夜のような親密空間

 前回の連載で、ソーシャルメディアの4つのエリアには、それぞれ問題が潜んでいることを指摘しました。

「現実生活×関係構築」のエリアでは「終わりなき日常」が続き、「現実生活×情報交換」のエリアには「表象のコミュニケーション」が生まれます。また、「価値観×情報交換」のエリアには「マイノリティ以前の孤独」が強化される危険性があります。

 さて、最後のエリアである「価値観×関係構築」のエリアにはどのような問題が隠れているのでしょうか?

後で見ていくように、「価値観×関係構築」のエリアに潜む問題は個人の孤独と深くかかわっている。

 価値観と関係構築のソーシャルメディアが重なることで、匿名性が担保された自由な発話環境と唯一性を求める親密な思いやり空間とが融合します。

武田隆(たけだ・たかし)エイベック研究所 代表取締役。日本大学芸術学部にてメディア美学者 武邑光裕に師事。「日本の伝統芸術とマルチメディアの融合」を学ぶ。1996年、学生ベンチャーとして起業。企業のウェブサイト構築のコンサルテーションを足掛かりに事業を拡大し、多数の受賞を得るも、企業と顧客の距離が縮まらないインターネットサービスの限界に悩む。クライアント企業各社との数年に及ぶ共同実験を経て、ソーシャルメディアをマーケティングに活用する「企業コミュニティ」の理論と手法を独自開発。その理論の中核には「心あたたまる関係と経済効果の融合」がある。システムの完成に合わせ、2000年同研究所を株式会社化。その後、自らの足で2000社の企業を回る。花王、カゴメ、ベネッセなど業界トップの会社から評価を得て、累計300社にシステムを導入。当ドメインでは日本最大。コミュニティには60万人を超える消費者が集まる。1974年1月生まれ。海浜幕張出身。

 自分のことを理解してくれるだろうという期待。無視はされないだろうという確信。話すことの恐怖を和らげてくれる仲間。これらが公的なみんなの空間への発話を支える勇気につながり、発話する人を無視や攻撃から守る思いやり空間をつくります。思いやり空間は発話の場であると同時に心の空間でもあります。

 修学旅行の夜を思い出してみてください。夜更けにどこかの部屋に集まってクラスの好きな女の子をいい合おうということになる。最初は誰も口を開きません。

 しびれをきらしたせっかちなやつが口火を切ります。場に安心感が生まれ、誰からともなく告白が連なる。場に告白が蓄積されることで親密な空気が生まれます。そのような空気が参加者に安心感を提供し、さらなる告白を促していきます。

 自分の発話が求められていることを忘れていた人々が、自分に適した親密な思いやり空間を見つけることによって、自分の内面深くに隠れていた欲求に気づかされる。告白のような発話から物語が噴水のように吹き上がる。しかし、この価値観と関係構築のソーシャルメディアは、現在のところ最も未発達なエリアといえます。