2011年3月11日に起こった東日本大震災。本連載の筆者である武田隆氏率いるエイベック研究所は、被災地におけるソーシャルメディアの利用実態を確認するという目的から、被災地に住む人々に向けたインタビューをオンラインで行う機会を持った。
仕事とはいえ、家財や大切な人をなくした人々に向けてその深層心理を尋ねる調査は気が重い。だが調査を進めるうちに、現場の生の声からでしかわからない、希望のきざしを感じられる気づきが得られた。
それは、調査に協力してくれた被災者の多くが語ってくれたこんな言葉に象徴される。「震災を経験した後で、『インターネット』というメディアに対する印象が変わった」――。

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インターネットが気づかせてくれた「仲間の存在」

武田隆(たけだ・たかし)エイベック研究所 代表取締役。日本大学芸術学部にてメディア美学者 武邑光裕に師事。「日本の伝統芸術とマルチメディアの融合」を学ぶ。1996年、学生ベンチャーとして起業。企業のウェブサイト構築のコンサルテーションを足掛かりに事業を拡大し、多数の受賞を得るも、企業と顧客の距離が縮まらないインターネットサービスの限界に悩む。クライアント企業各社との数年に及ぶ共同実験を経て、ソーシャルメディアをマーケティングに活用する「企業コミュニティ」の理論と手法を独自開発。その理論の中核には「心あたたまる関係と経済効果の融合」がある。システムの完成に合わせ、2000年同研究所を株式会社化。その後、自らの足で2000社の企業を回る。花王、カゴメ、ベネッセなど業界トップの会社から評価を得て、累計300社にシステムを導入。当ドメインでは日本最大。コミュニティには60万人を超える消費者が集まる。1974年1月生まれ。海浜幕張出身。

 私が代表を務めるエイベック研究所は、今夏、被災地におけるソーシャルメディアの利用実態を確認するという目的から被災地に住む人々約50人に向けたインタビューをオンラインで行いました。

 調査を進めるうちに、現場からの生の声からでなければわからない、様々な状況が見えてきました。

 特に関心を持った反応のひとつに「震災後に『インターネット』というメディアに対する印象が変わった」というものがありました。

 被災地に住む多くの方が、インターネットを通して、応援や慰め、救援物資の申し出などを受けており、皆、口々に「インターネットはあたたかい」と評価しました。

 また、私たちは、ソーシャルメディアに関する知見をクライアント企業に提供する「研究所」として、様々なソーシャルメディアの観察を定期的に行っていますが、震災以降、インターネットとりわけソーシャルメディアでは、これまでのマスメディアには難しい、新しいコミュニケーションの場となっていることが見てとれました。

 ソーシャルメディアの検索は、メディアの可能性を拡げました。

 ソーシャルメディアがないときには、テレビと近所の口コミだけが情報ということになります。被災地の人々からは、マスメディアは情報源として非常に頼られています。

 しかしその一方で、被災地の報道は、被災地の状況を被災地以外の人の視点から報道したものが中心になります。また、情報はニュースの時間帯に限られ、震災から日がたつにつれて報道は少なくなっていきます。

 しかしながら、インターネット上で検索をかけることで、リアルタイムにいつでも、いろいろな人たちが引き続き被災地の状況に心を寄せていること、何か支援ができないかと考えていることを、個々人の直接の書き込みから確認することができます。

 しかもこうした情報は、日本国内からのものに限りません。海外からの見ず知らずの人たちもやはり、引き続き心配してくれていることが読み取れるのです。

 また、被災地どうしで情報を交換し、お互いに助け合うなかで、その情報の一つひとつが名前はわからないが確かに存在する誰かによって発信されていることを実感します。インターネットを通して得られるのは、必要な情報だけではなく、同じ環境下で頑張っている仲間の存在とぬくもり。

 そこはまさに、情報+感情的価値を交換する場になっていました。